こちらのほうがブッカー賞にふさわしいと思ったロングリストの静かな小説。 Seascraper

 

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作者:Benjamin Wood
Publisher ‏ : ‎ Scribner
Publication date ‏ : ‎ November 4, 2025
Print length ‏ : ‎ 176 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 1668231719
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1668231715
対象年齢:一般(PG12)
読みやすさレベル:7
ジャンル:文芸小説、ノベラ(中編小説)
テーマ、キーワード:英国北西部の沿岸、小エビ漁、伝統を引き継ぐ義務と自分の夢を追う権利の葛藤、男性性
文藝賞:2025年ブッカー賞ロングリスト

英国北西部の沿岸でシングルマザーに育てられたTom Flettは、14歳の時から母の父親の弟子として伝統的な小エビ漁を手伝い、成人した現在でもこの仕事で家計を支えている。けれども、引き潮の時に馬でワゴンを引いてエビを集める仕事は退屈なだけでなく非常に危険でもある。そして海に集まる泥や匂いも身体に染み込む。

将来性がない仕事に疲れているがその解決策を考えつけないTomは母に隠れてギターの練習をし、フォークシンガーになる夢を見ている。隣人である友人の姉を思慕しているが、自分にはその価値がないと思っているので明かそうとはしない。

ある日、Tomの家に男が現れた。ハリウッドの映画監督を名乗るEdgar Achesonはロケ地を探している時に小エビ漁をしているTomの姿を浜辺で見かけ、ガイドとして雇うことを思いついたという。TomはEdgarの熱狂的なエネルギーに巻き込まれていく…。

作者は「タイムレスな小説にするため」にわざと年代を明記していないらしいが、小説の中に出てくる音楽や海の汚染などから1960年代初期だと想像できる。古い伝統と新しい時代の到来が混じり合う時代に、曽祖父の時代からの小エビ漁を引き継ぐ義務と自分のやりたいことに挑戦する渇望との間で悩む若者の孤独さが描かれている。

先日レビューしたブッカー賞受賞作Fleshのテーマは「男性性」だったが、この小説で描かれているのもある意味「男性性」である。どちらの主人公も母子家庭で育った男性であり、孤独感を抱いている。けれども、この2つの作品から読者が受ける感覚は非常に異なる。本書SeascraperのTomも饒舌ではないが、読者は彼の根底にあるあたたかい人格や人間性に惹かれる。静かで短すぎるほど短い小説だけれども、良い煎茶を味わった後のような余韻が残る。

「こちらのほうがブッカー賞を取るべきだった」という内容の読者レビューをいくつか見かけたが、私もこちらのほうがずっと良い作品だと思った。

作者のBenjamin WoodもTomのようにフォークシンガーになる夢を抱いていたことがあるらしく、オーディオブック版では、この作品に登場する曲を自作自演している。ナレーションも作者自身なので、オーディオブックが好きな人はぜひ試してみてほしい。

 

 

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