
作者:Woody Brown
Publisher : Hogarth
Publication date : March 31, 2026
Print length : 208 pages
ISBN-10 : 0593979974
ISBN-13 : 978-0593979976
対象年令:一般(PG12)
読みやすさレベル:6
ジャンル:文芸小説
キーワード、テーマ:自伝的小説、非言語的自閉症(nonverbal autism),障がい者デイサービス、社会問題、人間ドラマ
アメリカのロスアンゼルスにある施設「Upward Bound(上向きの軌道、あるいは上昇志向、これから成功に向かっていく、といった意味合いがある)」は、成人した若い障がい者を対象にしたデイサービスで、名前とは裏腹に他に行く場所がなくなった者たちが集まっている。
ほとんどのクライアント(デイサービス利用者)はnonverbal(言語でのコミュニケーションができない)であり、主要な語り手であるWalterもそのひとりだ。非言語的自閉症のWalterは幸運なことに母親がFacilitated Communication(支援付きコミュニケーションなどと訳されている)の手段を学んだので母を通じて大学教育も受けることができた。けれども、父が急死して母は収入のために働くことになり、ディケアを利用することになった。
従業員の中で最も利用者を理解しているのはCarlosだ。施設で重要な役割を果たしているMarianaの弟で、これまで何事も長続きしなかったのに、Upward Boundではなくてはならない存在になっている。施設のディレクターであるDaveは、元々は俳優を目指してハリウッドに来たのだが、夢破れてこの仕事にたどり着いたのだった。Daveは利用者を理解するつもりなどなく、資金を集めるイベントやそのハレの舞台だけに情熱を注いでいる…。
主人公の心理描写や施設の内容がとてもリアルなので読了してから「もしかして…」と調べたところ、この小説の作者は非言語的自閉症者なのだという。彼の背景を知ってから内容を振り返ると、あまりにも共通点が多いので自伝的小説ではないかと思える。
Woody Brownは、UCLAを卒業した初の非発話自閉症者であり、その後 コロンビア大学で由緒あるクリエイティブライティングのMFA(芸術修士号)を取得した。彼は、スペリングボードと Rapid Prompting Method(RPM)という支援的コミュニケーション手法を使い、母親を介して原稿を一行ずつタイプしているという。
この支援的コミュニケーションについては、実際には支援者が無意識に入力内容へ影響を与えているケースが多いとして、多くの専門機関(例:American Psychological Association や American Speech-Language-Hearing Association)が、科学的根拠が不十分だとして慎重または否定的な立場を取っている。けれども、この小説を実際に読み、テレビに出演したBrownと母親の様子をみた限りでは、私はBrown自身が作者だと信じている。母親が意識的あるいは無意識に編集している可能性は否定できないが、コアの部分は本人にしか書けない感覚だと思う。
重いテーマが含まれているし、非条理なアメリカ社会に憤りたくなる部分もあるが、ユーモアたっぷりで人間や生きることへの愛を感じる本である。

