Month: May 2009

ゲイ中年男性のあがきと社会風刺が可笑しい-Alternatives to Sex

muse & marketplace特集第8回でご紹介するのは、ボランティア講師のStephen McCauleyです。 アメリカでは、文芸評論家も重視するのが人物造型(Character development)です。人物描写ではなく、それ以前に登場人物そのものをまるで生きている人のようにちゃんと作り上げることがCharacter developmentで、それを描写するのはまた別のテクということになります。人物造型と人物描写のどちらにも卓越していて、それだけでも本1冊楽しめるのが、Stephen McCauleyの作品です。ジェニファー・アニストン主演の映画The Object of My Affection(邦題「私の愛の対象」)をご存知の方はいらっしゃると思いますが、その原作を書いたのがMcCauleyです。ゲイの男性と同居している妊娠中の女性が、親友だった彼に恋してしまうという切なくて可笑しいこのコメディはアメリカではベストセラーになった作品です。てっきり邦訳されていると思い込んでいたら、「ところが私の作品は日本語には訳されていないのよ。手伝ってくれなくっちゃ!」とチャーミングにせがまれて、びっくり。McCauleyの作品は日本人が楽しめそうなものばかりなので、邦訳されていないのは、本当に不思議です。 Alternatives to Sex…

豚インフルエンザのせいで突然売れ始めた本

最近の豚インフルエンザのおかげで、5年前に出版された本がベストセラーに躍り出ています。 The Great Influenza: The story of the deadliest pandemic in history は、1918年から20年近く全世界に蔓延したインフルエンザ・パンデミックに政治的、生物学的観点を加えた歴史ノンフィクションです。 http://rcm.amazon.com/e/cm?t=yofaclja-20&o=1&p=8&l=as1&asins=0143036491&md=10FE9736YVPPT7A0FBG2&fc1=000000&IS1=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=FFFFFF&bg1=FFFFFF&f=ifr&npa=1 http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?t=yukariscott-22&o=9&p=8&l=as1&asins=0143036491&md=1X69VDGQCMF7Z30FM082&fc1=000000&IS1=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=FFFFFF&bg1=FFFFFF&f=ifr&npa=1

児童書界の重鎮-Lois Lowry

muse & marketplace特集第7回は、Battle of the (Kids’) Booksの決勝戦の審判、Lois Lowryです。(二つの特集が重なるなんて素敵な偶然だと思いません?)Lois Lowryは、ヤングアダルト向け児童書としてより優れたSFとみなされているThe Giverの作者で、これまで数え切れないほど多くの作品を書いています。また、彼女はmuseのボランティア講師の常連でもあり、作家志望者に児童書のコツを指導しています。 今日は多くのLowryの作品の中から2つの異なる未来を描いたSFをご紹介します。 1.The Giver 理想郷の近未来では、すべてが同じであり平等である。色の差もなく、土地や天候にもバラエティはなく、人々の感情にも起伏はない。”Council of…

自費出版からニューヨークタイムズ紙ベストセラー作家へ-Still Alice

muse & marketplace特集第6回でご紹介するのは、今回講師(この会に参加する作家はすべてボランティア)として参加したLisa GenovaのStill Alice(以前にも書いたのですが、あらためて)です。 去年のmuseでパネリストとして参加した私の夫に、パネル終了後に話しかけてきたのがLisaでした。 そのときのことを思い出したのか、再会するなりLisaは「あなたのご主人はとても寛大な人」と褒め称えました。 当時自費出版の作家に過ぎなかったLisaの相談にのり、気前よくアドバイスを与え、その後彼の最新作World Wide Raveで彼女の成功談を載せたことを言っているのでしょう。 World Wide Raveにも載っているLisaのエピソードは作家志望者に希望を与えるものです。Lisa は大学で生体心理学(bio psychology)を学び、ハーバード大学で神経科学(…

日本には存在しない文芸エージェントのmyth?

muse & marketplaceには、作家志望者のための創作講座だけでなく、書いたものを「どう売るのか?」というマーケティングの講座やパネルディスカッションもあります。特に文芸エージェントたちのパネルディスカッションには、写真のように作家志望者(ここに集まっているのは将来のベストセラー作家も可能なシリアスなレベルの人です)がびっしり。 このディスカッションの目的には「門番としての文芸エージェントに関するmyth(誤った通念)をなくす」ことも含まれていたようですが、beforeとafterでイメージの変化はなかったですね。少なくとも私にとっては。 文芸エージェントというのは日本には存在しない職業です。日本では小説家になるための通常の門戸は出版社の新人賞です。けれどもアメリカにはそういうシステムはなく、フィクション・ノンフィクションにかかわらず、(自費出版をのぞき)出版を望む作家志望者は、まず文芸エージェント(literary agents)という代理人と契約する必要があります。出版社に直接原稿を送る人もいるようですが、出版社がそれらの原稿を読むことはまずありません。「作家志望者であればそれくらい知っているだろう」とばかりに、無情にも封筒に入ったままゴミ箱行きの運命をたどることになります。 作家志望者が原稿を送る先は、文芸エージェントなのです。アメリカには出版社も文芸エージェントも星の数ほど存在します。そのための本も出版されていますから、どのエージェントがどんな作家を抱えているのかを調べ、自分の書いている本に合った文芸エージェントに絞って原稿を送ります。また、いきなり原稿を全部送るのもご法度です。まずは多忙なエージェントの注意を引くような簡潔で魅力的な「query letter」なる手紙を出すのが筋なのです。これには自己紹介と本の簡単な内容、サンプル文として最初の1章から3章くらい(そのエージェントにより異なる)が含まれます。 現在有名になっている作家でも、たいていこの時点で慇懃無礼な拒絶の手紙を山ほど受け取っています。ニューヨークタイムズ紙のベストセラーになった作品が実は2年以上エージェントから拒否されたという話は決して珍しいことではありません。だから文芸エージェントは、「門番(gate keeper)」と(作家志望者からはやや憎しみをこめて)呼ばれているのです。 ようやく文芸エージェントと契約できても、必ず出版社と契約できるという保障はありません。けれども、エージェントはコミッション制で本が売れないかぎりは収入がありませんから、いったん契約を結んだら売れるための努力はしてくれます。アメリカでは、文芸エージェントがまず作品の編集や書き直しの提案といった日本の編集者のような仕事もします。そのうえで、契約後はまた出版社の編集者が同じような手直しを求めます。ですから出版される作品の完成度は日本よりも高いと私は感じています。 それはさておき、文芸エージェントのイメージの話題です。文芸エージェントになる人は、その前に出版社に勤めていたり、大学で創作を教えていたり、と文章にかけてのプロが大部分です。ですから優れた文章を判定する能力はある人々です。でも、出版業界は古い世界で、ベテラン文芸エージェントには古くさい考え方から抜けきらない人が多い、というのが私の抱いていた先入観でした。このパネルディスカッションでその先入観が覆されることはなく、かえって確信を持ってしまいました。なんせ、「Eメールは嫌い。query letterを僕に読んでほしかったら手紙(snail mail)にして。それ以外は読まない」と堂々と言い切るエージェントがいるのです。彼は、本ブログでもご紹介したPride and…