残された者の罪悪感を描く心理小説 The Lake Shore Limited

Sue Miller
288ページ(ハードカバー)
Knop
2010/4/6
文芸小説/現代小説

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両親の愛に恵まれなかったLeslieには子どもがおらず、歳の離れた弟のGusをまるで母親のように愛して来た。けれどもその愛情の対象を2001年9月11日の同時テロで失ってしまう。 高校教師のGusには当時一緒に住んでいた年上の恋人Billy(通常は男性名だがここでは女性名)がいて、Leslieはその後何年も独身でいるBillyに肉親のような責任感を抱いていた。

大学で教える傍ら舞台の脚本家をしているBillyには、Leslieには言えない秘密があった。それは、同時テロが起こる前にすでにGusと別れる決意をしていたことだった。自分を愛しているらしきGusにどう別れを告げるべきか悩んでいるときに同時テロで彼を失い、まるで悲劇のヒロインのように扱われることに後ろめたさを感じつつもそれを口に出すことができないできた。

ある種の生存者の罪悪感をひきずってきたBillyはその思いを最新の舞台劇The Lake Shore Limitedに書き上げ、Leslieと夫のPierceは観劇のためにヴァモントからボストンにやってくる。Leslieはこの機会に友人のSamをBillyに紹介しようとするが、そこには微妙な心理的背景があった。
舞台劇The Lake Shore Limitedでは、9/11を連想させるような列車事故が起き、妻の生死が不明な中年の主人公Gabrielの言動が物語の中心になっている。この難解な劇をどう解釈してよいのかLeslieは苦しむ。

LeslieとBillyに加え、劇の主人公Gabrielを演じたRafe、かつてLeslieに恋心を抱いていたSamの男女4人の視点で進行する「喪失のトラウマ」や「生存者の罪悪感」などをテーマにした物語。

●感想

Sue Millerの魅力は複雑な心理を描くところでしょう。このThe Lake Shore Limitedでもそれぞれの人物の言動の裏にある複雑な心理をよく描いていると思います。9/11の同時テロは、あまりにもショッキングであったためにかえって小説のテーマにはしにくい事件でした。この物語はテロそのものではなく、それによって人々が受けた心のトラウマを“静かに”描いています。

人の心理の奥底を覗き込んでしまうと、どうしても目を背けたいところが出て来てしまいます。この物語でも「醜い」とまではゆきませんが、親切な行動の裏に隠れた本人も気づきたくないような身勝手さ、自分の心を守りたいがゆえに他人の心を傷つける防衛反応、そんなものが沢山でてきますので、登場人物を好きになることは難しいかもしれません。けれども、気持ちは分かる。それがMillerの小説家としての巧みさだと思います。

●読みやすさ ★★★☆☆

さほど難しい文章ではありませんが、アクションがどんどん起こるような小説ではなく、入り込みにくいかもしれません。文章が上手な作家ですし、心理描写が好きな方に適しているでしょう。

●アダルト度 ★★★☆☆

性の話題/シーンはありますが、 普通の大人向けの小説程度とお考えください。

閉ざされた世界に逃げ道はあるのか?中高生向けSF新シリーズ Inside Out

Maria V. Snyder
320ページ(ソフトカバー)
Harlequin Teen
2010/4/1発売
SF/ヤングアダルト(中高生向け)/シリーズ第一部

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Trellaが住む世界は支配者階級が住むUpperと労働者階級が住むLowerレベルに別れている。Lowerレベルに住むTrellaの仕事はこの閉じた世界に網のように張り巡らされたパイプの内部を掃除することである。Lowerレベルでは家族を持つことは許されず、Care Motherと呼ばれる職業養母が子どもを育て、成人した子どもたちは肉体労働につかねばならない。人口過密のLowerレベルの窮屈さに絶えられないTrellaはふだんオフのときでもパイプの中で過ごし、 同じ施設で育ったCogon(Cog)という兄に近い存在の友人しかいない。

Cogの夢はこの息がつまりそうな世界から外の世界に逃げ出すことで、その情報を知っていそうな「Prophet」が出現するたびに望みを持つ。Trellaにはそんな望みはなかったが、Cogが見つけて来た新たなProphet、Broken Manは、Trellaの生誕の秘密も知っているらしい。

UpperとLowerの世界の接点はPop Copと呼ばれる警察である。この組織を司るファミリーが上と下の世界が手を結ばないようにそれぞれを憎み、軽蔑させるような情報を流している。アクシデントでUpperに住むRileyと知り合ったTrellaは、Upperの生活は自分たちに知らされていたような甘いものではないことを知り、RileyもLowerの人間が自分たちと何ら変わらないことを学ぶ。ここから「外」への出口を探す UpperとLowerの協力関係が生まれる。

孤独で嫌われ者だったTrellaはいつのまにか謀反グループのリーダー格になってしまう。

●感想その他もろもろ

これまでもPoison Studyの作者Snyderの出版社がハーレクイン(これまではハーレクインのロマンス以外を扱うMIRA)だというのは問題だと思っていたのですが、今回のInside Outが Harlequin Teenから出版されたというのには特別大きなため息をついてしまいました。
 Harlequin Teenは爆発的に売れたトワイライトの影響を受けて去年新たに設けられた部門です。私が昨年5月に入手した数冊のARC(アドバンスド・リーダーズ・コピー)をまだ読んでいないのは、「どうせティーン向けの甘ったるいロマンスファンタジー」と決めつけて、後回しにしていたからです(後回しにすると、たいてい新刊に気を取られてだんだん読まなくなる)。それで今回彼女の作品を発売前に入手したときの私の印象も「ついにハーレクインに説得されてロマンスに移動したか」とがっくりし、「後回し」にしたのでした。

ところが読んでみてびっくり。
これは完璧なSFです。
一応オマケ的にTrellaとRileyのロマンス的なところはありますが、その程度は2010年ニューベリー賞受賞作When You Reach Meに出てくるシーンくらいです。つまり普通の青春小説以下。
似た雰囲気を持つ作品は、昨年発売されたThe Maze Runnerと爆発的に売れたThe Hunger Gameです。どちらも男子生徒にアピールする作品であり、このInside Outもロマンスブックが好きな少女向けではなく、SF好きの男女向けです。それなのにハーレクイン・ティーンでは、男の子は絶対に手に取らないでしょう。
これはもちろん作家のせいではありません。出版社もハーレクインであることはやめられないし、結局のところ作家にあった出版社と契約しない(できない)エージェントが無能なんですね。 Snyderとは何度かメールを交わしたことがありますが、とても好感の持てる人です。Poison StudyシリーズにしてもGlass Studyシリーズにしても、不思議な世界を作り上げる卓越した才能があり、「ファンタジー」と「SF」作家であるべき人なのです。出版社の型にはまるようにスタイルを変えてゆかねばならぬということなら、本当に気の毒です。

●読みやすさ ★★★★☆

ティーン用なのでいつもよりさらに読みやすいレベルです。
障壁になるのはSF なので造語が多いというくらいです。

●アダルト度 ★★☆☆☆

「妊娠したくないから結婚(ここではMateになるという風に表現されている)しない」といった表現や子どもが生まれるシーンなどがありますが、実際のラブシーンはキス程度。それもドライ。ほとんどロマンチックな部分はありません。

マーク・トゥエイン没後100年記念

Mark_Twain マーク・トゥエインが死去したのは100年前の今日、4月21日でした。

「トム・ソーヤの冒険」は、私が大好きだった本のひとつでした。

大人になってからは、Twainの辛辣なユーモアにあふれる名言に惹かれました。下記はそんな名言の例です。

"A man is never more truthful than when he
acknowledges himself a liar.
"

"All generalizations are false, including this one."

"All you need is ignorance and confidence and the
success is sure."

私の一番のお気に入りはこれかも..

"Better to remain silent and be thought a fool than to
speak out and remove all doubt."



book

Mark Twainキンドル版には無料のものも多いので、ぜひこの機会に原作に触れてみてください。

Kindleをお持ちでない方は、Many Booksから無料でダウンロードできます。

PCを含め、いろいろなデバイスで読める選択も豊富です。ぜひどうぞ

SF、ミステリー、冒険が混じった2010年ニューベリー賞受賞作 When You Reach Me

Rebecca Stead
208ページ
Wendy Lamb Books
2009年7月14日発売
児童書(9-12歳)小学校4年生〜中学生対象/SF/ミステリー/冒険

時は1979年、小学校6年生のMirandaは弁護士事務所で働く母とニューヨーク市の小さなアパートで暮らしている。同じ建物に住む少年Salとは幼い 頃から親友だったのに、突然彼はMirandaを無視するようになる。その前後からMirandaの周囲で不思議なことが起こり始める。まずは奇妙 な行動を取るホームレスの老人が出現し、見知らぬ少年からSalが殴られ、アパートの鍵が紛失し、Mirandaあてに未来を予告するメモが届く。 Mirandaの愛読書は60年代に出版されたMadeleine L’Engle著のSFのクラシックA Wrinkle in Timeで、When You Reach Meでは、この本が重要な役割を果たしている。 謎めいた雰囲気だけでなく、親友を失った寂しさや、学校での人間関係の難しさ、ちょっとした初恋の気分、自分自身の欠陥への気付き、などこの年齢に特有の感覚をよく表していている。 軽く読めて、胸が暖かくなる。一応SFだが普通の児童書としても読める。

2010年ニューベリー賞 (Newbery Medal)受賞作

●ここが魅力!

洋書ファンクラブJr. 参加者のMoeさんとディスカッションしたときにも言ったことなのですが、この作品の最大の魅力あ、主人公のMirandaがごく普通の女の子であるということです。正義感溢れるヒロインでもなければ、優れた才能があるわけでもありません。親友のSalから無視されるようになったから、ひとりぼっちが嫌で友達と喧嘩をしたらしい同級生に近づくところや、その子の元親友を敵視するところなどに、読者は好感が持てないかもしれません。けれども、それが普通の子だと思うのです。欠陥があってもそれを悟って、成長してゆく、それをこの年齢の子どもの視点でよく描いていると思います。

全体にちりばめられた謎が読者をぐいぐい引き込んでゆき、最後に「じん」とさせてくれます。

私が子どもの頃とちょっと重なっているので、国は異なるけれども、少しノスタルジックになりました。

●読みやすさ ★★★★☆

簡単でとても読みやすい文章です。
1ページの語数とページ数が少ないので、読了もしやすいと思います。
ただし、タイムトラベルのからくりや全体にちりばめられたヒントなどは、注意を払わないと分からなくなるかもしれませんので、要注意。

●アダルト度 ★☆☆☆☆

ちょっとしたキスシーンはありますが、子どもっぽいものです。

信心深い妻エマへの愛と科学との間で悩んだダーウィンの人間らしさ Charles and Emma

Deborah Heiligman
272ページ
Henry Holt Book
2008/12/23
歴史ノンフィクション/伝記/中学生から高校生向け/ヤングアダルト

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チャールズ・ダーウィンが生まれたのは1809年、そして彼が種の起原(On the Origin of Species)を出版したのは1859年11月でした。昨年2009年はダーウィンの誕生200年と種の起原出版150周年を記念した多くの展示や出版が相次ぎました。

Charles and Emmaもそういった本の一つですが、妻のエマとの関係を通じてチャールズ・ダーウィンの人となりを描いているところが精彩を放っています。副題に「Darwin’s Leap of Faith」とあるように、進化論とキリスト教との間で彼が体験した葛藤も本書の重要なテーマです。

チャールズは科学者の典型で何事にも論理的なアプローチする癖があったようです。結婚もその例外ではなく、チャールズは後世有名になった結婚リスト(下記の写真)を作っています。紙の左上にMarry、右上にNot
Marryと書いてありますよね。それぞれの下にあるのが結婚のメリットとデメリットを箇条書きにしたものです。

DarwinArchive_CUL-DAR210.8.2_001

Not Marryの例のひとつは”Freedom to go where one liked”です。結婚すると「ビーグル号」での航海のような冒険ができなくなることを悩んでいるのですね。これは現代の男性にも通じるリストですが、決して尊大さの現れではなく、彼の論理的思考を象徴している微笑ましいエピソードです。

チャールズとエマは 仲が良い従兄妹同士でしたが、チャールズは論理的(かつ突拍子もない)思考によりエマと結婚するのが最も良いことだという結論に達するまで彼女と結婚することなんか考えていませんでした。決めたとなると、論理的な行動はプロポーズです。ところが、プロポーズした側と受けた側の反応が傑作です。私がつい吹き出した部分ですから、ぜひ実際に読んでいただきたいと思います。大真面目に結婚のメリット・デメリットリストを作ったくせに、婚約してからエマにメロメロに恋し、結婚後は当時の男性としては非常に珍しい愛妻家で子煩悩なお父さんになってしまったというのは、偉大な科学者の意外な実像です。

この本はチャールズとエマの特別な関係に焦点をあてています。ウエッジウッド創業者の孫である2人は非常にリベラルで知的な家庭(Wedgwood家は奴隷制度に反対だった)で育ち、エマは女性としては当時稀な読書家でした。彼女には自分の教育を活かして何かを成し遂げたい、という野心はありませんでしたが、チャールズはエマの才能を尊敬し、出版前に必ず自分の書物に対する意見を求めています。時代の先を行く頭脳を持った科学者が妻の意見を重視したことからもエマの知性がうかがわれます。それだけでなく、「種の起原」の出版に関するチャールズの葛藤にはエマの信仰心が大きな部分を占めています。信仰を重視しない論理的な父に育てられたチャールズはキリスト教の教えに対して疑問を抱いてきましたが、愛する妻のエマは敬虔なクリスチャンです。エマは、キリスト教を信じないチャールズが死後自分とは別の場所(無神論者は地獄に行くという教えだった)に行ってしまい二度と会えなくなることを悩み、何度もチャールズを説得しようとします。チャールズはそんな妻を厭わしく思うどころか、エマの信仰心に反するような「種の起原」を彼女の視点で何度も見直しています。この2人の関係は、男性から見ても女性から見ても羨ましく思えること間違いなしです。

児童書とはいえ中学生から高校生が対象のしっかりしたノンフィクションなので、日本人の大人が読むのにはぴったりの作品です。

National Book Award 最終候補作

Printz賞受賞作

YALSA-ALA賞 ヤングアダルトノンフィクション部門 受賞作

●読みやすさ ★★★☆☆

通常米国の伝記作品はやたら長くて、忍耐力が要ります。けれども(一応)児童書の本作品は、大人が楽しめる読み応えある内容ですが、ページ数が少なくて容易に読み切ることができます。それゆえ、日本人の大人におすすめの伝記です。

●アダルト度 ★☆☆☆☆

ちょっとしたラブシーンらしきものとそれをチャールズが分析してるところがありますが、小学校高学年から読んでも大丈夫でしょう。

●科学ドキュメンタリー番組NOVAによる史実に基づいたダーウィンとエマの物語

ピクチャ 8

無料ビデオ Darwin’s Darkest Hour(地域により観られないかもしれませんが、米国内であれば全編無料で観ることができます)
ダーウィンに関するNOVAのサイト:ダーウィンと進化論に関するいろいろな参考資料も読むことができます。

iPadは現存の雑誌の救世主か?

iPadの発売で、日本でも「iPadは雑誌や新聞の救世主ではないか」という期待が高まっているようです。

そういった期待に応えるかのように、Popular Scienceという最も良く売れている一般向け科学雑誌が、iPad のAPP版、Popular
Science+
を発売しました。

ピクチャ 6
iPad向けの雑誌がどのように開発されたのか、それを紹介するビデオをご覧下さい。

http://vimeo.com/moogaloop.swf?clip_id=10630568&server=vimeo.com&show_title=1&show_byline=1&show_portrait=0&color=&fullscreen=1

Mag+ live with Popular Science+ from Bonnier on Vimeo.

なかなか興味深いですよね。これに対する業界の期待も高まっているようです。

しかし、その後でO'Reilly の"Why iPad Adaptation is an Uphill Battle for Incumbent
Publishers
"
を読むと、まったく異なる景色が見えてきます。

ピクチャ 7

このビデオでは分からないことなのですが、実はこの雑誌に載っている広告のURLにハイパーリンクがないというのです。広告だけではありません。雑誌の中に出てくる興味深いガジェットをクリックしてもその内容が紹介されませんし、URLをクリックしてもそこに飛ぶこともできません。つまり、ユーザーにとっては紙媒体の雑誌が画面に載っているのと同じなわけです。

このブログ記事はこんな感想を述べています。

…this was clearly intended as a better/new/different version of the
magazine
, and so it suffers the fatal flaw of having to carry a ton
of the baggage of the old medium into the new one.

「これは明確に(現存の)雑誌の新しく、異なる、より良いバージョンを狙っているのである。それゆえ、旧媒体の重荷を新媒体に持ちこんでいるという致命的欠陥がある」

これは非常に鋭い指摘だと思います。というのは、古い発想のリサイクルで、読者を失いつつある雑誌や新聞が救える筈がないからです。

この記事で私が特に大きく頷いたのは以下の部分です。

I would bet that most of the executives around the table at Popular
Science were absolutely thrilled with this app. And that's the problem. I
have an informal filter on how interesting and innovative a new
content-related development or device is —
if a large number of people
from incumbent companies (especially big ones) are excited about it,
then it's not actually interesting or innovative enough to matter much,
because that means it's too similar to the current way of doing things. That's why the industry loves "enhanced ebooks" at the same time they're
totally missing opportunities to re-imagine the "job" their product
does for the customer.
(In all fairness, we struggle with this a lot at
O'Reilly too!)

「もし現存の企業(特に大手)の大部分の人々がこれ(Popular Science+)に興奮しているとしたら、実際には変化を起こすほど興味深くないか、あるいは革新的ではないということである。つまり、これまでやっていることとそう変わらないということだからだ。ゆえに業界は「改良された電子書籍」を愛するのであり同時にカスタマーに対して彼らのプロダクトが果たす「役割」を新たに発想する機会を完璧に逃しているのである」

これは電子書籍の導入で盛り上がっている日本の出版界にも耳が痛い部分ではないでしょうか?

先日私は「iPad体験記」に「現時点ではカラー雑誌を画面で読むくらいなら、無料のネットで検索してしまう人のほうが多いかも」と書きましたが、この記
事を読む限りは、わざわざ4.99ドルも払ってPopular
Science+をiPadで読むより、インターネットでハイパーリンクのついた無料のブログ記事を探してしまうでしょうね。

また、もっとも大切なのは「カスタマーの視点」です。作り手側の「こういうのを作りたい」とか「作りやすい」という発想から作るかぎり、読者からそっぽを向かれてしまう。やはり、大企業のトップが「それはリスキーすぎる」と眉をしかめるほど斬新な発想でないと、読者を納得させることはできないのかもしれません。

本から登場人物が飛び出してくるファンタジー Inkheart

Cornelia Funke
560 ページ(ペーパーバック)
Scholastic Paperbacks
2003年初版
小学校3、4年生〜中学生/ファンタジー

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2003年に出版されて大ヒットし、2008年に映画化されたInkheartシリーズ第一作

12才の少女Meggieはブックバインダー(古い本を修理する仕事)の父のMoと2人きりで暮らしている。ある夜、父のことをSilvertongueと呼ぶ奇妙な訪問者Dustfinger
が訪れる。Capricorn という悪人がMoと彼が所有するInkheartという本を追っているらしい。Moには本を音読すると本に登場する物や人物が飛び出してくるという奇妙な力がある。だが、その能力には、その代わりに現実の存在が本に吸い込まれてしまうという困ったオマケもついている。最悪なのは何が飛び出し、何が本に吸い込まれてしまうのか、彼にはコントロールできないことだ。

Meggieが幼いとき、MoがMeggieの母Teresa(Resa)にInkheartという題名の本を読み聴かせているときに、CapricornとDustfingerが本の中から現れ、代わりにMeggieの母ResaがInkheartに吸い込まれてしまった。父はそれを娘に内緒にしてきたがDustfingerの出現で真実を打ち明けることになる。MoとMeggieの2人は彼らの味方だというDustfinger と一緒に本好きの叔母のElinorもとに逃亡するが、Moは誘拐されてしまう。Dustfinger に騙されてMoを救出に行ったMeggieとElinorもCapricornにとらえられInkheartも奪われてしまう。

DustfingerがCapricornを助けたのは、本の世界に戻りたかったからなのだが、Capricornの目的はそれではなく、Moに「宝島」などの本を読ませ、宝を手に入れることだった。だが、不思議な力をコントロールする能力がないMoは、 One Thousand And One Nights(アラビアンナイト)からFaridという少年を出してしまう。

「本から登場人物が出てきたら…」という子どもにありがちの夢を物語にしたこのファンタジーの三部作はベストセラーになり、2008年に映画化された。

映画の予告編

●感想

ちょうど娘が10歳のころに出版されて人気になったもので、ファンタジー好きの娘も当時手に取りました。でも、全然熱中せず放り投げたので、私も今まで読まなかったのでした。洋書ファンクラブJr.のプログラムのために今回読んだのですが、私も娘と同じように途中で放り投げたくなってしまったというのが正直な感想です。

「本を読んだら、そこから登場人物が出てくる」というのは、とても素敵な設定です。Inkheartには「宝島」や「ピーターパン」など子どもが考えつきそうな本がたくさん登場します。最初のうち、面白くなりそうな本なのになかなか面白くならないな、と思っていたら、ページをめくるうちにそれがだんだん面倒くさくなってきました。

その理由を挙げてみます。

1.ページ数が多い本はディテールや会話にバラエティがあり面白い必要がある。Inkheartにはそれが欠けている。
2.キャラクターが薄っぺらい。感情に現実味がない。したがって、それらの人物の運命がどうなっても構わない気がしてしまう。
3.悪人を「あいつは非常に悪い」とか「恐ろしい奴」と何度も言葉で説明しておきながら、その恐ろしさを肌で感じさせてくれない。
4.長いストーリーだがひねりや盛り上がりに欠け、ページをめくる動機になる謎やドキドキがない。

悪人がそんなに酷いことをしないのは、小学生にとっては良いことかもしれません。けれども、そうであればこんなに長い話を書く必要があるのか、また三部作にする必要があるのか、よくわかりません。商業的に大成功した本ですから、きっと面白いと思う子どもは沢山いるのでしょう。

「洋書ファンクラブJr.」の読書プログラム参加者で小3(今月小4)のMoeさんとディスカッションしてみました。(Moeさんの感想は洋書ファンクラブJr.でどうぞ)
私の意見には「そう言われてみればそう感じる」ということでしたが、彼女の年頃の良いところは、本に欠けているところを自分の想像力で自然に補っていることです。ですから、MoeさんはこのInkheartを十分「面白い」と感じたようです。そういう子どもの視点はとても大切だと思いました。

●読みやすさ ★★★★☆

文章は簡単です。覚えにくい名前(ファンタジーの特長ですね)が出てくるのが難ですが、普通に存在する名前ではないのであまり気にせず、絵のような感覚で見分ければそれで十分です。

●アダルト度 ☆☆☆☆☆

文さえ読めれば小学校低学年からOKです。

●このシリーズのの続編

Inkspell

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Inkdeath


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愛する妻の真の姿が別人だったとしたら? Never Look Away

Linwood Barclay
432ページ(ハードカバー)
Delacorte Press
2010/3/9発売
ミステリー/スリラー

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Amazon Best Books of the Month(3月)

地方紙の記者David Harwoodは妻のJanと一緒に4歳の息子Ethanを連れて遊園地に行く。到着直後にEthanの姿が見えなくなり、DavidとJanは二手に別れて息子を探す。Davidは見知らぬ男がEthanを置き去りにして逃げるところを目撃し、無事に息子を取り戻したが、今度は妻のJanが行方不明になる。

最近鬱になり、自殺念虜があることを打ち明けていた妻の安否を心配したDavidは、警察にそれを伝えて捜索を依頼する。ところが、警察の調査ではHarwood一家が購入したチケットは2枚だけであり、しかもDavidが言うようにJanが鬱で医師に相談した記録もなかった。状況証拠から、警察はDavidが妻を殺害して自殺にみせかけようとしたことを疑いはじめる。

妻が消える前から、Davidは私立刑務所の誘致に関する政治汚職事件を調査しており、謎の女性から電話とEメールを受け取るようになっていた。彼が勤務する新聞社が経営難で敷地を私立刑務所の建設場所として売却するという情報を耳にしたDavidは、社の経営陣が汚職とそのもみ消しに絡んでいるのではないかと疑い始める。刑務所の経営者からは謎の女性についての情報を教えるよう脅され、マスコミからは犯人扱いされ、職を失ったDavidは追いつめられて行くが、それでも新聞記者の調査技術を活かしてJanを見つけようとする。

●ここが魅力! 

よく知り尽くしていると思っていた妻が、まったく異なる過去と性格の人物であったとしたら…。このミステリー/スリラーは、見慣れた日常生活が瞬く間に異様な世界に変化し、自分の理解者であり味方だと思ってた伴侶が自分を陥れる敵に変化してしまう不条理と恐怖を描いています。
スピーディーな展開と、ナイーブすぎるDavidの人物描写はよくできていると思います。けれどもJanの情緒や考え方は、(いくらそういう女性であるとしても)女性が読んであまり説得力がないような気がしました。男性作家だから仕方がないかもしれませんね。そういえば、この本に出てくる女性は全員感情移入できなくて、おっかないです。

深い感動を残すような本ではありませんが、エンターテイメントとしては良くできていると思います。

●読みやすさ ★★★☆☆

文章は簡単です。
読みにくいとすれば、それは視点がよく変わることでしょう。Davidの視点が一人称で語られている場所と、”She thought…”とJanの視点が三人称で語られる場所があります。これ、 英語の小説には多いのですが、 私がすごく嫌いなテクニックです。一人称で語りたいのであれば、最初から最後までそうするべきですし、それができない小説であれば全部三人称で語るべきだと思うのです。でも、これまでそれを批判する評論を読んだことがありませんし、有名作家がよく使っている手法です。ということは、ここでは受け入れられているのでしょうね。ため息…

●アダルト度 ★★☆☆☆

そんなにきわどい描写はありませんが、一応性的なシーンがあります。

iPad初日の売上が示唆するもの

先日私は「iPadがKindleキラーであるという意見は
間違っている
」と書きましたが、それに似た意見をDailyFinace.comの記事でみつけましたので、私の意見と交えてご紹介しようと思います。

ピクチャ 3 まず、アップル社が発表した土曜日のiPadの売上は約300,000台とのことでした。確かに大きな数字ですが、発売前には600,000から700,000を予想する専門家もいたので、意外と少なめだったというのが私の印象でした。

もうひとつ私にとって予想外に低かった数字がe-booksのダウンロード数です。250,000という数字をあたかも「多い」ように報告しているメディアがありますが、ちょっと待ってください。売れたのが30万台でe-bookのダウンロード数が25万ですよ。ということは、少なくとも5万人はe-bookはまったくダウンロードしていないということです。1人が1e-bookということはないでしょうから、実際にe-bookをダウンロードした人の数はもっと少ないでしょう。

 しかも、アップル社は「売れた」とは言っていませんDailyFinace.comの記事にもあるように、注目するのはアップルが"downloaded" という言葉を使っており"sold"を使っていないことです。どうやらiBookstoreからダウンロードされたのは無料e-bookやサンプルチャプターが多かったようです。Kindleをプレゼントとして受け取った姑がその日のうちに9.99ドルの新刊を3冊買った事実と比べてみると、iPadのユーザーにとってそれで本を読むことはさほど重要ではないと想像できます。ですから、「iPadがKindleキラーだ」という意見にはやはり疑問を覚えずにはいられません。

この記事の"iPad is more suited to the occasional reader than the avid one(iPadは熱心な読者よりもたまに読書する人に適している)"そして"It probably won't kill the Kindle"という意見は、先日の私のブログ記事とほぼ同様です。

ピクチャ 4 また、この記事がリンクしているDear AuthorというブログのiPad10時間体験記が卓越です。彼女も私と同様に「iPad はKindleキラーではない」という結論に達しています。その理由はまず私と共通する「グレア(反射)」と「重さ」が読書に適していないということです。それに加えて貴重なのが(iPadを購入していないし、ロマンスブックを買わない私が知らなかった)「ロマンスブックが買いにくい」という体験談です。なぜなら、ロマンスブックはe-bookのセールス全体に影響を与える重要なジャンルだからです。

DailyFinace.comの記事は、さらにiPadはマスコミが煽っただけでありgame-changerではないかもしれない、と述べています。

iPodは(大量の音楽を保存し持ち運べるという)solutionを与えてくれたデバイスであり、game-changerでした。けれども読書の分野で多くの人にsolutionを与えてくれたのはKindleです。それゆえにe-bookの分野では市場のリーダーになったわけですね。iPadは、e-bookリーダーとしてのKindleの読書体験を根本的にくつがえすようなデバイスではありません。iPhoneが登場してもブラックベリーが消えていないことや、まだまだ多くの大企業がMacではなくWindowsを使っている現況をみても、iPadはe-bookの分野に限って言えばマスコミが煽るほどのgame-changerにはなり得ない、と私は感じています。

けれども、先日書いたようにいろいろな可能性を秘めたデバイスですから、改良されたらぜひ入手したいとは思っています。