極左から極右に変身した論客が(図らずも)暴くトランプ政権のアジェンダ 『Big Agenda』

著者:David Horowitz
ハードカバー: 188ページ
出版社: Humanics Pub Group
ISBN-10: 1630060879
発売日: 2017/1/17
難易度:中級(ストレートな文章。センテンスが短い。ネイティブなら小学校高学年で理解できるレベル。ただし、単語は調べる必要あり)
適正年齢:PG15
ジャンル:エッセイ(政治)
キーワード:トランプ大統領、Make America Great Again、極右、反リベラル


おかげさまで(?)、最近はアメリカの出版社からも多くのレビュー用の本をいただくようになった。
こちらから興味を抱いてリクエストするものもあるが、突然やってくるものもある。サプライズのプレゼントみたいで心踊るのだが、残念なことに自分の読みたい本であることは少ない。

この本も、前ぶれなく、ある日郵便箱に到着した。

封を開けたとき、自費出版のパロディ本だと思った。それくらい、安っぽい作りだったのだ。

まず、表紙のトランプの写真の選択。
不機嫌そうなこの顔からは、「プロ・トランプ」本なのか「アンチ・トランプ」本なのか推測不可能だ。
早押しクイズなら「アンチ・トランプ!」と答えただろう。

次に、些細なことだが、紙の質が悪い。カバーはペラペラだし、ハードカバーがワープしている。ものすごく安上がりにしようとした努力が明らかだ。

そして、ものすごく薄い!

アメリカでは政治経済に関するノンフィクションは、少なくとも500ページくらいはある。1000ページ近いのもざらだ。
結論に至るまでに、文献や証言があり、分析が必要だからだ。ところが、この本は200ページもない。中をパラパラ見ると、1章が2ページで終わっていたりする。

もっと驚いたのは、(こんな本なのに)定価が26.99ドル(約3000円)もするということだ。

あまりのことにかえって興味が出てきてしまい、ゴミ箱(リサイクル)直通をやめてじっくり眺めてみた。

著者の名前を見て、ようやく「ああなるほど」と納得した。David Horowitz(ディヴィッド・ホロヴィッツ)じゃないか。

日本ではたぶん無名に近いだろうが、アメリカで政治に興味を持っている人の間では、よく知られている人物だ。リベラルの間では悪名高きネオコンであり、古株の保守からは「あいつは、右のふりをしているが、極左のままだ」といった懐疑心を抱かれてきた癖がある人物だ。

ホロヴィッツの両親はスターリンの熱心なシンパで、恐慌時代に「アメリカ共産党」のメンバーだった。彼自身も、コロンビア大学(学士号)とカリフォルニア大学バークレー校(修士号)というアメリカで最もリベラルとみなされている2つの大学で学んだ。卒後の1960年代から70年代にかけて「マルクス主義者」と「新左翼」を自称し、過激な黒人民族主義と黒人解放闘争を展開していた政治組織ブラックパンサー党とも親密な関係にあった。

ところが、ホロヴィッツは、70年代後半から80年代後半にかけての10年間の間に極左から極右に移ったのだ。
最初は「レーガン大統領を支持するリベラル」の立場を取っていたが、2001年の同時テロ後にジョージ・W・ブッシュ大統領が「ブッシュ・ドクトリン(テロリストや大量破壊兵器を抱える悪の国に対して、先制的な自衛権を行うことを容認する新戦略思想)」を掲げると、その強い擁護者になった。新ネオコンに変身してからのホロヴィッツは、堂々と人種差別、反イスラム教の思想を表現している。

そして、2016年の大統領選挙では、トランプの情熱的な支持者となり、就任以来人々を騒然とさせている「大統領令」の背後に存在するスティーブン・ミラーの長年の思想的な指導者であったことを自負している。

ところで、本書の副題は、「President Trump’s Plan to Save America(トランプ大統領のアメリカ救済計画)」だ。

だが、トランプ大統領が国民のために行う政策の解説を期待して読むと裏切られることになる。内容は、「リベラルを打倒するための闘争計画」なのだ。ほぼすべての章が、「左翼のアジェンダはこうであり、それに対して保守はかくして戦うべき」という流れになっている(だから短く、2ページで終わる章さえある)。

ホロヴィッツは、「保守は、急進派リベラルとのすべての対決を、相手の口を殴るところから始めるべきだ(conservatives must begin every confrontation by punching progressives in the mouth)」と煽る。本書に散らばっている表現は、「すぐさま頸動脈を狙うのが戦略だ(the strategy is to go for the jugular)」、「本気で戦うときがきた(it’s time to take the gloves off、ボクシングのグラブを脱いで素手で殴れという表現)」、「容赦するな/皆殺しにせよ(take no prisoners)」と暴力的だ。過去を知れば当たり前のことだが、まるで60年代の学生運動のような雰囲気だ。

本書を読んでも、トランプ政権の外交や経済政策の詳細はわからない。その点ですでに破綻している。しかし、トランプを取り囲む側近の好戦的な態度を理解するのには役立つ本だ。

「極左も極右も、根っこは同じ」ということが肌感覚でわかる本でもある。どちらも、存在するためには「敵」が必要なのだ。宿主がいないと存在できないウィルスに似ている。ときに宿主を殺してしまうが、そのときにはすでに別の宿主を見つけて生き残る。

そういったことを知るためには、読む価値はあると言えるだろう。

先日の日本出張のときに飛行機の中で読み、下線を引いてメモを書き込んだのだが、最終日のパッキングでどうしても入らない物が大量に出てきたので、仕方なく簡単なメモだけ手帳に書き取ってホテルの部屋に置き去りにした。

結果的には、最初の印象どおり「ゴミ箱行き」になる運命の本だったのだ。

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