作者:John Green ほかに、 The Fault in Our Stars 、 Looking for Alaska、Paper Towns
ハードカバー: 304ページ
出版社: Dutton Books for Young Readers
ISBN-10: 0525555366
発売日: 2017/10/10
適正年齢:PG15(高校生向け)
難易度:中級+〜上級(読みやすい)
ジャンル:青春小説
キーワード:OCD(強迫性障害)、メンタルヘルス、初恋、友情、青春、ミステリ
Azaは、強迫性障害を含むメンタルヘルスに密かに苦しむ16歳の女子高校生だ。
ひとつはばい菌への恐怖症だ。すぐにばい菌に汚染されたことを想像していたたまれなくなり、手のひらに傷をつけて、膿を絞り出し、消毒することを繰り返している。
表層的にはなんとか普通の生活を送っているが、常に自分の心が作る罠に押しつぶされそうだ。
Azaの心に平気で踏み込んでくるのが親友のDaisyだ。
Daisyは、消息を断った億万長者Russell Pickettの息子Davisが、Azaの子供時代の知り合いだということを嗅ぎ出す。汚職の疑惑が高まっているなか姿を消したPickettを見つける情報提供者には、10万ドル(約1千万円)の報奨金があるという。Daisyは、Azaをそそのかして、Davisに近づき、情報を得ようとする。
お金目当てで近づいてくる者を警戒するDavisにとってDaisyの策略は明白だが、孤独な彼はAzaたちと交流するようになる……。
前作の『The Fault in Our Stars』がベストセラーになり、映画も大ヒットした後、ジョン・グリーン(John Green)はスランプに陥り、5年以上作品を出版していなかった。そのスランプをようやく乗り越えたのがこの新作だ。
この新作で、グリーンは主人公を通してOCD(強迫性障害)というメンタルヘルスを描いているが、彼自身が子供の頃からメンタルヘルスの問題を抱えているのだという。
Azaの視点で描かれる胸が押しつぶされそうな絶望感は、グリーン自身が感じてきたことなのだろう。そう思うと、著者にとってのこの作品の重要さが想像できる。
これまでのグリーンの作品とは異なり、Turtles All The Way Down は「静か」だ。ドラマチックな展開や派手なアクションはなく、内面との戦いのほうが多い。そして、号泣するような結末やほのぼのしたハッピーエンドもない。人生は、死ぬまで、良くなったり、悪くなったりすることの繰り返しなのだと感じさせる。
しかし、駄作ではない。かえって小説家としての円熟を感じる。
ところで、この「Turtles All The Way Down 」というタイトルは、拙著『ジャンル別 洋書ベスト500』にも掲載したStephen Hawkingの 『A Brief History of Time』の第一章冒頭部分のジョークから来ている(わかりやすいように意訳した)。
著名な科学者(たぶんバートランド・ラッセル)が、あるとき公の場で天文学の講演を行った。
地球は太陽を周回し、太陽は銀河系を周回している、といったことを話した後、講演場の後ろのほうに座っていた小柄な老女が立ち上がった。
「あなたが語ったのはたわごとよ。世界は本当は平らで、それを大きな亀が支えているんですよ」と老女は発言した。
科学者は見下したような笑いを浮かべて尋ね返した。
「それでは、その亀は何の上に立っているのですか?」
老女は、「なかなかやるじゃないの、お若い衆。とっても賢いわね」と切り返しを褒めた後でこう言った。「もちろん、下までずっと亀なのよ!」
下までずっと亀だというのが、この小説の根底にあるメッセージということになる。
それが何かは、読者が考えるしかない。
最後の数ページで主人公が未来から現在を振り返るような部分は、ポエティックで美しく、そして切ない。
それを読んでも絶望はなく、「人生は、完璧にハッピーでなくても、いいんだ」という安堵を感じさせる。成就しなくても、初恋はそれだけでありがたいものなのだとも。
わかりやすいハッピーエンドではないが、悩む若者はハッピーエンドよりも励まされるかもしれない。もやもやするものが残っても、それが「青春」ってものかもしれないし。