作者:Kimmery Martin(デビュー作家)
ハードカバー: 352ページ
出版社: Berkley
ISBN-10: 0399585052
発売日: 2018/2/13
適正年齢:PG15+(性的シーンあり)
難易度:中級+〜上級
ジャンル:大衆小説/chick lit(女性小説)/心理スリラー
テーマ/キーワード:女医、恋愛、友情、過去、裏切り、嘘、医療事故、医療訴訟
東京医科大学が入試で女性受験者の得点を一律に減点し、女性の合格者数を抑えていたという報道があった。だが、アメリカでは女医の数が増えており、去年からメディカルスクールの入学者が過半数を超えた。それについては、Cakesのほうでコラムを書いた。
だが、アメリカでもまだまだ女医への偏見はある。特にマッチョな外科系は、女医にとって居心地が悪いところがあるようだ。
日本で東京医科大学が話題になっている最中に、2人の女医が主人公の『Queen of Hearts(ハートの女王)』という小説を読んでみた。作者Kimmery Martinは、医師データによると救急医療専門医師らしい。既婚の女医でありながら、書評を書いたり、ポッドキャストをしたり、こうして小説も書いたりしているスーパーウーマンだ。
Queen of Heartsには、作者のMartinとよく似たキャリアを持つ2人の女医Zadie(ゼイディ)とEmma(エマ)が登場する。
ゼイディとエマは、ケンタッキー州ルイビルのメディカルスクール(医学大学院)在学中、寮のルームメイトになったときからの親友である。メディカルスクール卒業後にヴァンダービルト大学で「レジデンシー」と呼ばれる研修を終え、ゼイディは小児科の心臓専門医、エマは外傷外科医になった。36歳になった今は、ふたりともノースカロライナ州シャーロットで結婚し、母になり、医師として働いている。困難なときに助け合ってきた2人は、互いにとってかけがえのない親友だ。
だが、突然過去の人物がノースカロライナに現れ、2人の心の平和をかき乱した。
エマが勤務する病院の医師チームに新たに加わったNick Xenokostas(ニック・ゼノコスタス)は、ゼイディとエマが医学生のとき、外傷外科の研修中に出会った指導医だった。「ドクターX」として知られていたニックは、ゼイディとエマにとって「忘れたい過去」である。
ニックの出現により、ゼイディが傷ついた過去の記憶だけでなく、エマが埋没させていた過去の秘密までもが明らかになっていく……。
Martinは読者を引き込むテクニックに長けている。恋愛、裏切り、過去の秘密、など、超ベストセラー作家のLiane Moriartyを彷彿とさせる要素が揃っており、デビュー作家とは思えないほどの貫禄を感じる。
もうひとつの魅力は、メディカルスクールの多忙な生活や、外傷外科の混沌とした現場、手術のシーンなどの臨場感だ。ハンサムで才能がある男性医師であるために、倫理を無視して自分の欲しいものを手に入れる習性が身についている「ドクターX」や、その存在を受け入れてしまう女たちの心理も、作者の計算には入っていないと思うが、かえって実感がある。
同様に、この小説に登場する黒人やインド系研修医の描写を通じて、作者自身が無意識のうちに人種差別的な視点を露呈している。看護師に対する医師の差別的な視点もそうだし、#MeToo 運動で女性たちが声を上げているセクハラに疑問を抱かせていない点でも、ツッコミどころが豊富だ。でも、それがたぶん現場のリアルな実態なのだろう。
西海岸や東海岸の大都市ではLGBTQを含めて多様性が進んでいるが、中西部や南部はまだそうでもない。優秀な女性外科医が登場するこの小説すら、それを見せている。南部の裕福な白人たちが住んでいるシャーロットを舞台にしたメロドラマチックな小説は、娯楽小説としても面白かったが、別の面でも興味深かった。