誰が一番巧みな嘘つきなのか最後まで読者を悩ませる卓越した心理スリラー An Anonymous Girl

作者:by Greer Hendricks, Sarah Pekkanen (Wife Between Us
ハードカバー: 375ページ
出版社: St Martins Pr
ISBN-10: 1250133734
ISBN-13: 978-1250133731
発売日: 2019/1/8
適正年齢:PG 15+(性的コンテンツ少々あり)
難易度:上級
ジャンル:心理スリラー
キーワード:心理学者、調査、浮気、裏切り、倫理、嘘、心理操作

故郷の田舎町を後にしてニューヨーク市に移住したジェシカは、演劇のメイクアップ・アーティストとして認められることを夢見ていた。けれども、信頼しえいた演劇監督から性的暴力を受けて職場を去り、今は化粧の出張サービス会社で働いている。故郷の両親は幼い時の事故が原因で発達障害を持つ妹の医療費でギリギリの生活をしており、ジェシカは演劇の仕事を辞めたことを言えないでいる。

お金に困っているジェシカは、出張で化粧をした女子大生が心理学調査について話すのを耳にした。大学教授が行っている「倫理感と道徳心」の調査に参加するだけで50ドルも支払ってもらえるというのだ。女子大生の携帯電話からこっそり情報を盗み取ったジェシカは、すでに調査対象として選ばれた者のふりをして研究室に姿を現した。

いくつか質問に答えて50ドルを受け取るだけの簡単な仕事だと思いこんでいたジェシカだが、調査の責任者であるシールズ教授に興味を抱かれて調査の継続を約束した。ジェシカは、質問に答えるだけで驚くような報酬をもらえることを歓び、美貌で優しいシールズ教授に親しみを覚えるようになる。しかし、ただの質問は、疑わしい倫理的な実験に進展していく……。

調査の本当の目的は何なのか? シールズ教授と別居中の夫はどういう人物なのか? 別居している本当の理由は何なのか? 最も危険なのは誰なのか? ……読み進めるにつれて知っているつもりの真相が間違っていることがわかり、新たな疑問が生まれる。そして、登場人物の誰ひとりとして信用できなくなる。

前回のThe Wife Between Usもそうだったが、もう「お見事!」としか言いようのない完成度が高い心理スリラーだ。そこでも書いたが、ヘンドリックスは長年サイモン&シュースターに務めていた編集者で、ペッカネンはこれまでに10作以上の女性小説(Chick lit)を出版しているベテラン作家である。この2人は、心理スリラーを書かせたら最強のペアと言えるかもしれない。主人公をlikable(好感が抱ける人物)にしようとしない潔さも、このペアの強さを示している。

デビュー作はすばらしいのに2作目にがっかりする作家は多いが、このペアについては次回も期待して大丈夫だと思う。

2 thoughts on “誰が一番巧みな嘘つきなのか最後まで読者を悩ませる卓越した心理スリラー An Anonymous Girl

  1. 予想を覆され続けるページターナーでしたが、読み終わってみたらモヤモヤしています。シールズ教授の夫への「愛」に納得できないからかもしれません。嫌ミスになりそうなラストにも読者の意見が分かれそうですね。

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