イェール大学の秘密結社と魔術をテーマにしたLeigh Bardugoの新作ファンタジーは、虐待のサバイバー物語でもある Ninth House

作者:Leigh Bardugo (The Grisha三部作, Crooked Kingdom2部作
ハードカバー: 480ページ
出版社: Flatiron Books
ISBN-10: 1250313074
ISBN-13: 978-1250313072
発売日: 2019/10/8
適正年齢:PG15+(性的暴力など)
難易度:上級(ファンタジーを読み慣れている人なら普通のレベル)
ジャンル:ファンタジー
キーワード:イェール大学、秘密結社、魔法、幽霊、パラノーマル、オカルト、虐待のサバイバー

YAファンタジーのShadow and Bone(The Grisha三部作)でデビューしたLeigh Bardugoは、この三部作の爆発的な人気でまたたく間にYAファンタジーの女王的な存在になった。彼女の次の大作であるCrooked Kingdom2部作は、これまでのYAファンタジーの枠を超えた暗さがあり、さらにファンを増やした。

そのBardugoの最新作は、ティーンの読者を対象にしたYAファンタジーではない。一般向けファンタジーとして初めての作品ということになる。

Ninth Houseの舞台は、これまでの作品とは異なり、現代のイェール大学だ。
イェール大学の秘密結社では、ジョージ・W・H・ブッシュ(41代大統領)、ジョージ・W・ブッシュ(43代大統領)、ジョン・ケリー(元民主党指名大統領候補)など権力者を生み出してきた「スカル・アンド・ボーンズ(Skull and Bones)」が有名だ。それ以外にも古くから現在まで続いている秘密結社は「スカル・アンド・ボーン」を含めて8つあり、それぞれに強力な存在らしい。

タイトルになっているNinth Houseは、文字通り9つめの秘密結社だ(作者の創作)。だが、表面には名前が出ていない。なぜなら、これら8つの強力な秘密結社を守り、管理する警察のような役割を果たしているからだ。

主人公のGalaxy(Alexと自称している)は名門イェール大学の新入生だが、ここに入学できるような学生ではなかった。幽霊が見えるだけでなく、幽霊から肉体的な攻撃を受けてきたAlexは、それを誰にも伝えられずにティーンのときに家出をし、ドラッグ売買をするグループに巻き込まれた。その巣窟での大量殺人でひとりだけ生き残ったサバイバーのAlexに、イェールで有力な立場にあるdean(学生部長)が奨学金つきで入学できるオファーをしたのだ。

出来すぎのオファーにAlexは懐疑心を持つが、サバイバーの彼女はチャンスを掴むことにする。生まれ故郷のロサンゼルスからイェール大学があるコネチカット州のニューヘイブンに着くと、想像以上に異様な世界が待ち受けていた。8つの秘密結社では、特権階級出身の傲慢な学生たちが違法のオカルト行為を行っており、その秘密行為を、金と地位を持つパワフルな卒業生たちが支える構造があるのだ……。

Ninth Houseは、これまでのBardugoの作品より暗く、Lev GrossmanのThe Magiciansに似たところもある。だが、The Magiciansよりも登場人物に感情移入できるところは大いに異なる。YAファンタジーの定番とは異なり、ロマンスの要素もない。どちらかというと、Tana Frenchのミステリを連想させる。自分以外の誰も信じないし、特に道徳心があるというわけではなく、それでも真相をつきとめるためならどんなことでもするAlexは、Dublin Murder Squadシリーズに登場するハリネズミのような女性刑事たちを連想させる。そこが私にとっては魅力だった。

このファンタジーは、特権階級の男子学生たちがドラッグなど(この本では魔術)を使って女子学生に性的暴力を振るい、それをスマホで撮影して皆に広めるという、現実のアメリカで起こっている問題も取り上げている。自らもイェール大学で8つの秘密結社のひとつ(Wolf’s Head)に属していた作者のBardugoは、こういった場面を書きながら、学生時代の自分がいかに加害者側にまわって女性被害者たちを貶めてきたか反省したと後のインタビューで語っている。

アメリカの女性読者の間では、性暴力の被害者はこの本のいくつかの場面で(過去のおぞましい体験を蘇らせる)「トリガー」になる可能性があると警告している。だが、目を背けたくなる事実を晒していくというのも、このファンタジーの主人公のAlexが心のどこかで求めていることなのだろう。

次の巻が完結作になるようだが、今から楽しみだ。

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