パンデミックや社会に蔓延する不安からしばし逃亡したい人にぴったりのチックリット(女性小説) Beach Read

作者:Emily Henry
Spiral-bound: 384 pages
Publisher: Berkley
ISBN-10: 1984806734
ISBN-13: 978-1984806734
発売日:2020年5月19日
適正年齢:R
難易度:上級(新しい難易度評価で7/10。ほとんどの部分は読みやすいけれど、カルト宗教の部分とかわかりにくい部分も出てくる)
ジャンル:女性小説(chick-lit)/恋愛小説
キーワード:ロマンス、ロマンチックコメディ、小説家、スランプ、家族の葛藤、ライバル、敵対心

「chick-lit(女性小説」と呼ばれるジャンルのベストセラー作家January Andrewsは、最愛の父を亡くし、母だけを愛していたと信じていた父に愛人がいたことを知って鬱状態になる。そのうえ、大学時代から6年付き合って同居もしていた恋人から別れを告げられ、スランプに陥り、貯金も底をついた。ニューヨーク市での住む場所をなくし、経済的に追い詰められたJanuaryは、しぶしぶながらも、父が愛人との隠れ家に使っていたミシガン州の湖のほとりの別荘に引っ越した。

別荘に到着したJanuaryは、その直後に、失礼で嫌味たっぷりな近所の男に会う。その時には気づかなかったが、それは、文芸作家になった大学時代のライバルAugustus Everett(Gus)だった。

登場人物を全部殺してしまうタイプの暗い純文学ばかりを書くGusから、Januaryはハッピーエンドの文章しか書かないと揶揄されてきた。自分の作品がニューヨーク・タイムズ紙のベストセラーリストに入ったときに、Gusの作品が自分より上にランクされていたのも知っていた。だが、文芸作家として崇め奉られているGusは、「ロマンス作家」の自分を見下げていることだろうと想像し、彼のキャリアを追っていたことすら知られたくはなかった。

まったく異なる2人だったが、スランプに陥っているという共通点があることがわかった。競争心が強い2人はある賭けをすることにした。互いのジャンルを交換して小説を書き、それを成功させるというものだ。どちらにとっても馴染みない分野なので、週に1度相手にレッスンを与えることにする。Januaryは遊園地やビーチなどロマンチックな場面にぴったりの場所を選ぶが、Gusは墓場や妹をカルト宗教で亡くした女性の取材、カルト宗教での集団自殺の場所といった暗い場所に連れて行く……。

敵が友になり、友情が愛情に変わるというクラシックなロマンスの設定だが、よくあるロマンス小説やchick-litと呼ばれる女性小説よりも人物造形が深く、親子関係や人間関係についてもよく描けている。私が一番楽しんだのは作家2人の描写だ。特に、どんなサブジェクトであっても残酷な悲劇に変えてしまうGusには笑える。幸せになる方法を知らないGusがお花畑のようなJanuaryの思考回路に対して抱く羨望のようなものも味がある。書店主が主宰する「ブッククラブ(読書会)」に招かれたJanuaryのシーンはまさにコメディだし、2人の会話にジョナサン・フランゼンが出てきたのもおかしかった。アメリカの文学業界での(シリアスな文芸作家であることを自覚しすぎている)フランゼンと(女性小説の大御所である)ジェニファー・ウェイナーや日本でもお馴染みのジョディ・ピコーらとのツイッターでの諍いを知っている人にとっては、すごくよくわかる笑いだ。

業界のことに興味がない読者にとっても、読み始めたら最後まで一気に読み進めたくなるページターナーだ。ロマンス小説的な要素(ハッピーエンド)はあるが、そこに到達するまでは家族ドラマであり、ふつうの大衆小説である。

パンデミックや多くの社会問題に対応することも大切だが、そこから時には心を休ませる必要もあると思う。現実からしばし逃亡し、最後に心を温めたい人にお薦めのBeach Read(ビーチで軽く読むのに適した本のニックネーム)だ。ただし、アメリカには「Beach Readだと思ったのに、全然軽いロマンスじゃない!」と怒っている読者もいるようだが。

1件のコメント

  1. Twitterのポストで紹介されているのを見て、早速読みました。いろいろなことが起こりもう限界、と感じていたところにまさにぴったり、ニュースは2、3日お休みして(クオモ知事のデイリー会見以外)楽しく読み切りました。レビューでも仰られているように、人物造形や人間関係の描写が深くて、心がほっこりする作品でした。子供がまだ小さい頃に、育児疲れで現実逃避のように手当たり次第こういう小説を読み漁ったのを思い出します。。。今までにも、紹介されている作品で気になったものを数冊読んでいます。面白い作品に出会わせてくださってありがとうございました。

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