作者:Stuart Turton (デビュー作 7 1/2 Death of Evelyn Hardcastle)
ハードカバー: 480 pages
ISBN-10 : 1728206022
ISBN-13 : 978-1728206028
Publisher : Sourcebooks Landmark
発売日:October 6, 2020
適正年齢:PG15+(少ないが性的な場面あり)
難易度:9/10(もったいぶった書き方なので、すんなりと入り込めない。登場人物が多すぎるし、人格が移り変わるので混乱しやすい)
ジャンル:歴史ミステリ
キーワード:17世紀、オランダ黄金時代、帝国主義、オランダ東インド会社、航海、殺人、探偵、悪魔
オランダが貿易で栄えていた黄金時代の1634年、オランダ植民地のインドネシアの首都バタヴィア(現在のジャカルタ)からオランダ東インド会社の船「Saardam」がアムステルダムへの航海に出た。
Saardaamを司るのは、船長ではなく、バタヴィアの知事Jen Haanである。妻のSaraとLia、そして、Haanの愛人のCreesjieは、Haanの命令で急遽一緒にアムステルダムに向かうことになった。この突然の航海には、もうひとりの重要な乗客が関係しているようだった。探偵として世界で最も名が知られているSamuel Pippsは、ディナーの客として招かれていたのに、翌日罪状も知らされずに逮捕されたのだった。アムステルダムに到着するなり、帝国主義の先駆けであるオランダ東インド会社を牛耳るGentleman 17(『17人会』と呼ばれる重役会)の裁きを受けて処刑されることになっていた。
何年もSamuelのボディガードを務めてきたArent Hayesは実は名家の出身で、祖父はHaan知事の親友だった。知事は、ライバルを叩き潰すだけでなく、辱めを与え、東インド会社のためには無情に大量殺人も行う。妻から憎まれていても暴力で圧倒するだけだが、自分の命を救ったことがあるArentだけは「甥」として特別な扱いをしていた。子ども時代に起こったことのトラウマで故郷を去り、兵士やボディガードをしてきたArentは、見かけは厳つい巨人だが、正義感が強い。SamuelとHaanの人間としての欠陥を知りつつも、愛している。
乗組員にも隠れた対立がある。知事のボディガードの兵士たちはキャプテンのDrechtがまとめているが、船員は船長のCrauwelsの命令のみに従う。だが、Saardamの場合には、船長用のキャビンを使うのはHaanで、その次に良いキャビンを使うのは東インド会社の主任商人なのだ。
鎖に繋がれたSamuelが乗船しかけたとき、血がついた包帯を巻いたハンセン病患者らしき者が現れ、不吉な予言をして火に包まれた。
航海の途中、死んだ筈のハンセン病患者が現れ、不吉なことが起こり続ける。それは、「Old Tom」と呼ばれる悪魔の仕業だと人々は信じ始める。HaanはArentにOld Tomの問題を解決するように命じるが、ArentはSamuelのような才能がないことを自覚している。問題を解決したいのであれば、家畜用の暗い地下穴に閉じ込められているSamuelを解放するべきだと懇願するが、Haanは耳を貸さない。Arentは、Haanの妻で独立心が強く鋭利なSaraと一緒に謎解きを始める。
不気味な事件は起こり続け、殺人が次々と起こる。残された者たちは、生き残るためにOld Tomと取引しようと考えるようになる……。
17世紀のオランダ黄金時代の航海もので、しかも、オカルトの要素がある。そして、SamuelとArentはシャーロック・ホームズとワトソンのようなコンビだ。沢山の登場人物それぞれに秘密の過去があり、それらがつながっているところは、アガサ・クリスティのようだ。そうなると、面白くないほうが不思議だ。
だが、期待をしすぎたのか、私はいまひとつ楽しめなかった。理由はいくつかある。ひとつは、登場人物の人物像に一貫性がないことだ。たとえプロットの一部だとしても、説得力がない。だから人物に感情移入できない。もうひとつは、「驚きの展開」を狙いすぎているところだ。エンディングに関しては、途中から私が「たぶんそうなるだろう」と思ったとおりだったので意外性はなかったのだが、説得力はないと思った。毎回謎が謎を呼ぶエンディングをし続けたテレビドラマが、続きすぎて陳腐になったような印象だった。
ただし、私の意見は少数派であり、アメリカの大部分の読者は非常に良い評価を与えている。このタイプのミステリが好きな人には楽しめることだろう。