売れているけれどオススメできない今年注目のスリラー The Last Thing He Told me

作者:Laura Dave
Publisher ‏ : ‎ Simon & Schuster
刊行日:May 4, 2021
Hardcover ‏ : ‎ 320 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 1501171348
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1501171345
対象年齢:一般向け(PG15)
読みやすさ:7
ジャンル:大衆小説(ドメスティック・スリラー)
キーワード、テーマ:謎の失踪、過去の秘密
特記:Reese Witherspoon Book Club

自然を活かした家具製作者として裕福なクライアントの間で人気があるHannahは長年独身でいたが、魅力的な男性Owenと出会って結婚した。妻を亡くしたOwenには16歳の娘Baileyがおり、Hannahに対して敵意を懐き続けている。

結婚して1年経ったある日、Owenが突然姿を消した。娘のBaileyには巨額の現金、Hannahには「Protect her(彼女を守れ)」というメモだけを残して。

何が起こったのかまったく理解できないHannahの元にFBIとUS Marshal(連邦保安局)が別々に訪れる。それぞれに別のアジェンダを持っている様子だ。次第にわかってきたのは、Hannahが知っているOwenのアイデンティティは本当のものではないということだ。誰も信用できないHannahは自分でOwenのアイデンティティと失踪の理由を探そうとする……。

本書はReese Witherspoon Book Clubに選ばれた作品であり、とてもよく売れている。アマゾンでの読者評価も高い。だが、私の正直な感想は「売れているけれど駄目な本」というものだ。

ここでは正直なレビューを書くことにしているので、なるべくネタバレなしにその理由を説明しようと思う。

まず、この作品が「ミステリ、スリラー」のジャンルだという印象そのものが間違っている。失踪事件や、犯罪組織を匂わせる者が登場することから「スリラー」を試みたことはわかる。しかし、最初にどかんと提供された謎が明らかになってみると、「そんなアホな。。。」程度のことなのだ。

そもそも、その理由で姿を消す者が「Protect her」なんてナゾナゾのようなメッセージを残したりするはずはない。受け取った者は「herって誰やねん?」「protectって、誰から守ればええのん?」と???だらけになるだけだ。謎解きしている間に危険に囲まれてしまうではないか!

それに、結婚して1年しかたっていない妻、しかも娘が毎日侮辱してきた相手に「命がけで娘の面倒みてね〜」なんて考えつく男は無責任すぎる。そのダメ男に甘やかされた駄々っ子の娘を「愛する人の子供だから愛する」的に無償の愛で守る主人公の女性も馬鹿げている。なんで、こんな奴らのために自分が好きなキャリアや人生を犠牲にしなければならないのか?

この本は「スリラー」のふりはしているが、実は「女性小説」と呼ばれるカテゴリに属していると私は思う。女性小説のジャンルそのものは悪くない。この本の問題は、スリラーのふりをしながらも、実際には「良い女性はこうあるべき」といったサブリミナルなメッセージを込めている道徳小説だという点にある。しかも、それを読者には知らせていない。

スリラーとしては穴だらけで、すべてが馬鹿げているのに、それを美しい愛のストーリーに仕立て上げようとしている小賢しさが透けて見えてしまう。だから他の読者が感動している(らしき)最後の部分で怒りが爆発しそうだった。なぜこれほど多くの読者が高い評価を与えているのかま〜たくわからなかった。

ふだんあんまりひどいレビューを書かないのだが、読んでから1ヶ月経ってもまだムカついているので正直に書くことにした。

すみません。久々に「売れているけれど駄目な本」のカテゴリです。でも、私の感想はマイノリティなので、興味がある人はぜひ試してください。

調べてみたら、Laura Daveの前作も嫌いだったようなので、私には合わない作家のようです。売れていても、もう読まないことにします。

2 thoughts on “売れているけれどオススメできない今年注目のスリラー The Last Thing He Told me”

  1. Owen の失踪の理由がわからない間はけっこうページターナーという感じだったのですが、理由が判明した後は、主人公の言動が不可解で、読み進めづらくなってしまいました。

    私は「怒りが爆発」とまでは行かなかったのですが(笑)、読んでいるあいだ何か落ち着かない気持ちを感じて、読み終わってからも「何でだろう?」とモヤモヤしていたのですが、渡辺さんの書評を拝読して、かなりすっきりしました。

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