Gone Girl級のクレバーなプロットとツイストを求める読者にお薦め。ホラーの雰囲気もある「嫌ミス」心理スリラー Rock Paper Scissors

作者:Alice Feeney (His & HersSometimes I Lie
Publisher ‏ : ‎ Flatiron Books
刊行日:September 7, 2021
Hardcover ‏ : ‎ 304 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 1250266106
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1250266101
対象年齢:一般(性描写やバイオレンスはPG15+)
読みやすさ:7
ジャンル:心理スリラー/ホラー
キーワード、テーマ:相貌失認(失顔症、Prosopagnosia、Face Blindness)、結婚、夫婦、裏切り、復讐、罠、心理的な駆け引き、嘘、秘密、無人の教会、スコットランド

ロンドンに住む脚本家のAdam Wrightには生まれつき人の顔を認識することができない相貌失認(失顔症、Prosopagnosia、Face Blindness)がある。13歳の時にシングルマザーの母がひき逃げで殺され、犯人の顔を見たのにその顔を認識できず警察に伝えることができなかった。その後悔が今でも悪夢として取り憑いている。妻の顔さえ認識できないし、表情を読むことができないAdamは、その他の感覚を研ぎ澄ませて相手を分析する能力を自負している。しかし、動物保護施設で働く妻のAmeliaと結婚したときには愛していた筈なのに自分の判断が間違っていたのかもしれないと疑うようになっている。

崩壊しかけている結婚を救う最後の手段としてAmeliaはスコットランドでのバケーションを計画した。この週末がうまくいかなかったら、彼女は最後の手段を用意している。Ameliaは家に残って仕事をしたいAdamをなんとか説得して連れ出したのだが、雪嵐のなかの8時間の車の旅で2人の仲はさらに険悪な雰囲気になった。

ようやく目的地に到着すると、そこは人里離れた場所にある古い教会だった。AdamはAmeliaが何かを企んでいるのではないかと思って問い詰めるが、Ameliaは職場のクリスマスでのくじで無料の週末バケーションを当てたと説明するだけだ。住居に改造された教会に入ると、食事は冷凍庫にあり、ワインは地下にあるという歓迎メモがあった。食事もワインも素晴らしかったが、次々と不穏なことが起こり、Adamはロンドンに戻りたがる。しかし、大雪のためにそれも不可能になってしまった……。

この心理スリラーは、夫婦のAdamとAmelia、そしてこの教会の近くの小屋に住むRobinの3人の視点(POV)、それに加えて毎年結婚記念日に妻が夫に宛てて書いた秘密の手紙(日記のようなもので夫には渡していない)で進行する。最初はよくある倦怠期をむかえた夫婦のようだが、そうではないことがだんだんわかってきて、がぜん興味深くなってくる。

この作者のこれまでの作品(His & HersSometimes I Lie)について「どんでん返しを狙いすぎ」というやや厳しい評価をしてきた私だが、この作品は本当によくできていると感心した。何度もツイストはあるのだが、そこに来るまでの準備が綿密であり、説得力がある。

結婚記念日にはそれぞれの年のテーマがあり、それを贈り物にする伝統があるらしい。この小説ではそれが妻から夫への秘密の手紙のテーマになっている。それがかなり重要だということが後でわかってくる。ミステリ好きにはこういう伏線も楽しい。

登場人物全員の性格や行動に問題があるので、感情移入はしにくいだろう。Gone Girlのような「嫌ミス」が苦手な人は避けたほうがいいかもしれない。けれども、作者が丁寧に張り巡らせた偽りの罠にはまる快感を楽しみたい読者にはお薦めの作品だ。人里離れた教会という場所の設定もゴシックスリラー好みには嬉しい。また、すべてを細かく解決して説明するのではなく、多くのヒントを与えた上で読者の解釈に任せる部分もある。今回はそれが活きていて、不気味さを読後まで続かせている。このRock Paper Scissorsはなかなかのスグレモノである。

リチャード・アーミティッジがAdamを演じているオーディオブック版もお薦め。

2 thoughts on “Gone Girl級のクレバーなプロットとツイストを求める読者にお薦め。ホラーの雰囲気もある「嫌ミス」心理スリラー Rock Paper Scissors

  1. 構成が凝っていて、読んだ後、確認のために読み直したくなるような本ですね。嫌ミスは苦手ですが、読書体験としては楽しいです。

    1. そうですよね!気分が良くなる本ではないですけれど、見事にクラフトされたミステリだと感心しました。まやさんと「やればできるじゃん!」と(作者について)語り合ったのですが、この作者のこれまでの最高作品だと思います。

Leave a Reply