意地悪とも言える鋭い視点で人間の性を描くJonathan Franzenの新作 Crossroads

作者:Jonathan Franzen
Publisher ‏ : ‎ Farrar, Straus and Giroux
刊行日:October 5, 2021
Hardcover ‏ : ‎ 592 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 0374181179
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0374181178
対象年齢:一般(性的な描写あり)
読みやすさ:9(大学教育を受けたアメリカ人でも知らない単語が多出する)
ジャンル:文芸小説
キーワード、テーマ:家族ドラマ、1970年代アメリカ中西部、宗教、倫理観

1970年代のシカゴ近郊。キリスト教のリベラルな教会でassociate pastor(教会の長の補佐的な立場の牧師)を務めるRuss Hilderbrandtとその家族の宗教、倫理、家族関係をめぐる葛藤を描く。

中年にさしかかったRussは、自分が働く教会でカルト的な若者グループを作り上げたAmbroseに嫉妬し、憎んでいる。家庭では長年連れ添った妻のMarionに性的魅力を感じることができなくなっており、教会に加わった美貌の未亡人に心奪われている。現在に幸せを感じられないMarionは過去の自分の失敗に固執するようになっている。長男のClemは宗教は信じず、強い社会正義と倫理観を持っているが、大学で知り合ったガールフレンドの影響で自分の信念に疑いを抱くようになる。長女のBeckyは品行方正でありながら高校での女王的存在でいたのだが、教会の若者グループで崇められているミュージシャンの青年に恋をして変わっていく。次男のPerryは天才的な頭脳を持っているが倫理観に欠けており、中学生のドラッグを売っている。末っ子Judsonはまだ幼いので家族それぞれが作り上げるドラマを実感していない。

「アメリカ中西部の家族が繰り広げる日常的なドラマ」というと退屈そうだが、Jonathan Franzenにそれを描かせると目が離せない濃厚なドラマになる。中年にさしかかった夫婦それぞれの心理、成長過程の子どもたちの親やきょうだいに対する嫌悪感など、恐ろしいほど見事に分析され、描かれている。Franzenはよくジョージ・エリオットなどの古典作家と比べられるが、たしかにミドルマーチやサイラス・マーナーとの共通点はある。

Crossroadsは約600ページもある長編であり、しかも章で区切られていないので、とっつきにく本ではある。Franzenは高学歴のアメリカ人ですら知らない(使わない)”big words”を使うことで知られており、この本でも沢山出てくる。そのために単語の意味をチェックする機能があるKindle版をお薦めする読者もいるくらいだ。だが、章がないので、「そういえばあのとき…」と過去のページを読み返したいときにはみつけるのが難しくて困る。そういう場合を想定したらハードカバーのほうがいいだろう。

こういった「読みにくさ」はあるが、いったん登場人物を把握したら、彼らの動向が気になって最後まで飽きることがない。これは三部作の一巻だということで、読む前にはエベレスト山を見上げるような気分だったのだが、読了したときには次の本が待ち遠しくなっていた。

Freedomが刊行されたときに何度か書いたが、Franzenには女性作家や読者を見下したミソジニーな発言が非常に多い。そのためにボイコットしている人もかなり知っている。それでも私がFranzenを読み続けるのは、彼の作品が素晴らしいことを認めているからだ。

言葉を変えれば、作家本人を嫌いでも読みたくなるほどすごい作家だということになる。芸術は複雑なのである。

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