時間軸の異常が浮かび上がらせる「現実とは何か?」という普遍的な問いかけ Sea of Tranquility

作者:Emily St. John Mandel
Publisher ‏ : ‎ Knopf; First Edition
刊行日:April 5, 2022
Hardcover ‏ : ‎ 272 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 0593321448
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0593321447
対象年齢:一般(PG 15)
読みやすさ:8
サブジャンル:SF
キーワード、テーマ:タイムトラベル、時間軸の異常、孤独、愛、現実、認知
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1912年、18歳の英国人青年Edwinは父親を怒らせてカナダに追放された。手つかずの大自然が残るブリティッシュ・コロンビアの森で、Edwinは一瞬闇に取り囲まれ、そこでバイオリンの音を聴く。そこから読者は(St. John Mandelの前作である)2020年のThe Glass Hotelの登場人物に再開し、次の2203年ではSt. John Mandelを連想させる女性作家Olive Llewellynに会う。彼女のベストセラー小説には、宇宙船のターミナルで男性がバイオリンを奏で、それを森が取り囲んでいくシーンがあった。Oliveは月のコロニーに夫と娘を残して地球で本のプロモーションのツアーをしているが、その最中に地球でパンデミックが起こって月に戻れなくなる。

2401年、地球の国家は変化しており、米国はいくつかの独立国に分かれている。月にはドームに囲まれたコロニーがあり、そこで退屈な人生に辟易していた男Gaspery-Jacquesは、時間軸の異常を調査する極秘かつ危険な探偵職に飛びつく…。

パンデミックをテーマにした近未来小説Station Eleven(『新・ジャンル別洋書ベスト500プラス』収録)でベストセラー作家になったSt. John Mandelは、Genre-Bending novel(ひとつのジャンルに当てはまらない)小説の代表作家でもある。今回も、「タイムトラベル」や「時間軸の異常」というSFの要素を使いつつも、その部分はバックグラウンドに過ぎず、「現実とは何なのか?」という人間が抱く究極の問いを語っている。これまでの自分の作品や、自分自身がモデルのような200年後の作家が住む自分のメタバースを作っており、登場人物の視点による「現実」と読者の「現実」との境界の曖昧さに、「現実とは何なのか?」という問いを感じる本である。

非常に野心的な本だが、どこかこれまでに読んだことがあるような既視感を拭い去ることができなかったのが残念だった。

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