長編ファンタジー好きにグッと来る要素が揃った、泣ける長編ファンタジー The Book That Wouldn’t Burn

作者:Mark Lawrence (Red Sister)
Publisher ‏ : ‎ Ace
刊行日:May 9, 2023
Hardcover ‏ : ‎ 576 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 0593437918
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0593437919
対象年齢:一般(PG15)
読みやすさレベル:8
ジャンル:ファンタジー、エピックファンタジー
テーマ、キーワード:図書館、異次元、異人種、異なる時空、宗教、戦争、歴史、ロマンス、ラブストーリー
シリーズ:The library trilogy
2023年これ読ま候補

砂埃に包まれた村で暮らす少女Liviraは、不毛の地でも育つ雑草の名前をどおりに苛酷な環境でも生き延びるたくましさがあった。ある日、犬を連想させる容貌を持つ異人種「Sabber」の兵士らが村を襲い、住民を惨殺した。捕虜にされた子供たちは縛られたままで連行されるが、砂漠を旅する途中に王国の軍隊がSabberを攻撃し、子供たちは兵士らと一緒に王国の首都に行くことになった。

王国に到着した子どもたちが直面したのは予想もしなかった差別だった。砂埃の中で暮らす人々は首都の住民から「dust-rats(埃ネズミ)」と蔑まれており、Liviraらは最下層の肉体労働に「配分」されることになっていた。けれども、Liviraが命を救った兵士のMalarの采配で、彼女だけが図書館司書の見習いとして学ぶ機会を得た。数々の困難に出会いながらも、Liviraは持ち前の好奇心と利発さを発揮して雑草のようにしぶとく図書館に根を下ろしていく。

青年Evarは閉ざされた図書館の空間で4人の「きょうだい」と一緒に育った。彼らは血が繋がったきょうだいではなく、子供の頃に「Mechanism」に飲み込まれ、この空間に一緒に吐き出された仲間だった。「Mechanism」は、もともとは本の内容に浸り切るためのマシーンだった。だが、ときにMechanismに入ったまま行方不明になる子供がいて、Evarときょうだいたちは、その失われた子供たちだった。本と一緒に「Mechanism」に取り込まれた子供たちはその本の内容を吸収して一定のスキルを得ていた。だが、Evarだけは特定のスキルがなく、何かから引き離された感覚と、顔も名前も知らないある女性がどこかで待っているという漠然とした記憶しかない。5人の子供たちを育てたのはAssistantとSoldierの2人だが、Evarたちとはまったく似ていない彫像のような外見で、脈もない。きょうだいたちは、彼らが人工の存在だと思っている。

この空間から抜け出したいEvarは、ある日見つけた本に惹きつけられる。Evarが知らない言語で書かれていた本だが、あるページに書かれていた「Evar! ページをめくらないで。私はExhangeにいる。底で私をみつけて」という1行だけは理解できた。それが水たまり(pool)の底ではないかと思いついたEvarは、危険を覚悟で飛び込む。そして、迷い込んだ異質な世界で、Evarは痣だらけで痩せっぽちの少女に出会う…。

誰も終わりを知らない無限の時空を持つ図書館を舞台に、異なる時代と場所で生まれた2人が何度も出会い、引き離される。その運命を操っているのが図書館なのだが、この図書館を創造した者と図書館を支えるassistantの真相は誰も知らない。長い歴史のなかで互いを惨殺しあってきた2つの異人種は、なぜ誕生し、なぜ戦うのか? LiviraとEvarはなぜ出会う事になったのか? 図書館が象徴する「知」は悪なのか、善なのか? 図書館にまつわる歴史と謎は、現実の世界での宗教を連想させる。

ファンタジーのファンをうっとりさせる壮大な世界観と胸がよじれるようなラブストーリーで、600ページ近い長編が短く感じる。

作者のMark Lawrenceは、数学の博士号を持ち、AIの専門家として英米の政府の機密プロジェクトで働いたこともあるらしい。科学的な背景を持つ作者が描くフィクションの素晴らしさにもぐっとくる。

これはまだシリーズの最初の巻なので、億劫に感じるかもしれない。けれども、こういう長いファンタジーはなかなか邦訳されないので、ぜひ原文で試してみていただきたい。

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