人種差別が強い南部での黒人シェリフの葛藤を描くS. A. Cosbyの最新作 All the Sinners Bleed

作者:S.A. Cosby
Publisher ‏ : ‎ Flatiron Books
刊行日:June 6, 2023
Hardcover ‏ : ‎ 352 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 1250831911
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1250831910
対象年齢:一般(PG 15+)
読みやすさレベル:8(文芸小説的な表現、社会的背景の理解)
ジャンル:犯罪小説、スリラー(Southern noir)
テーマ、キーワード:アメリカ南部、人種差別、白人警官による黒人射殺、連続殺人

米国南部ヴァージニア州の小さな郡Charon Countyには奴隷制度と人種差別の長い歴史がある。そのCharon Countyで初めて選挙で選ばれた黒人の保安官であるTitusはかつてFBIで働いていたのだが事情があって故郷に戻ったのだった。前任者の白人保安官は地元の有力者たちから買収されており、彼の部下である警官らも同様だった。就任後の改革がようやく落ち着き始めた時に教師が元生徒によって殺害された。Titusらが銃を持った黒人の犯人に降伏を呼びかけているさなかに白人警官が発泡して犯人を射殺してしまった。

殺害された白人教師は学生からもコミュニティからも慕われており、殺害の理由は誰にも理解できなかった。白人の有力者らは黒人保安官の無能さを責め、黒人コミュニティは犯人が黒人であったために白人の警官が不要な発泡をして殺したと信じた。白人優越主義者のグループと黒人の社会運動家の板挟みになり、どちらの人種からも裏切り者呼ばわりされながらTitusは真相を見極めようとする。それによって、誰にとっても都合が悪い真実が浮かび上がってくる…。

S.S. Cosbyは2021年これを読まずして年は越せないで賞の候補作のひとつであるRazorblade Tearsの作者で、Southern noir(南部ノアール)というサブジャンルの代表的作家である。この作品はRazorblade Tearsとは趣が異なり、わりとストレートな犯罪小説だ。南部の人種差別を扱っているが、ストレートな糾弾ではなく、他の人が書きにくい警察と一般市民との関係や #blacklivesmatter 問題の複雑さに踏み込んでいるところが「さすがS.A. Cosby!」という感じだ。

前回ほどの衝撃はなかったが、今回もじんわりと味わい深く、スピードあふれるページ・ターナーだった。

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