作者:Angie Kim (Miracle Creek)
Publisher : Hogarth
刊行日:August 29, 2023
Hardcover : 400 pages
ISBN-10 : 0593448200
ISBN-13 : 978-0593448205
対象年齢:一般(PG15)
読みやすさレベル:7
ジャンル:サスペンス、家族ドラマ
テーマ、キーワード:自閉スペクトラム症、Angelman syndrome(アンジェルマン症候群)、発達障害者ときょうだい、両親との関係、社会的スティグマ、アジア系移民が体験する差別、ミステリ
新型コロナウイルスのパンデミックが始まった2020年の夏、14歳の息子Eugeneと一緒に近所の自然公園をハイキングしていたAdam Parsonが姿を消した。ひとりで戻ってきたEugeneの爪には血痕があり、動揺している様子だったが、何が起こったのかを聞き出すことはできない。Eugeneには自閉スペクトラム症とアンジェルマン症候群があって生まれた時から言葉を話さないからだ。
Eugeneの姉で20歳のMiaはEugeneがひとりで帰宅した時の目撃者であり、この小説のナレーターである。詳細にこだわり、何でも分析せずにはいられない性格のMiaは、父親失踪のミステリを細かく分析して推理していく。
事件を担当した刑事は、Adamが姿を消した時に一緒にいたEugeneを最初から犯人として扱う。家族は失踪したAdamの消息を案じながらもEugeneを守るためにあらゆる努力をする……。
Miracle Creekでデビューした作家Angie Kimの第二作Happiness Fallsは、前作と同様に自閉スペクトラム症とアジア系移民の社会的スティグマを題材にしている。だが、今回は発達障害者の家族が中心になっている。しょうがい児のきょうだいが抱える独自の悩み、方針が異なる両親の関係、そして白人男性である父親とアジア系移民の母親が受ける対応の違い、双子なのに白人に見えるJohnと純粋にアジア系に見えるMiaに対する周囲の対応の差、それらが登場人物それぞれに与える影響など扱っている問題は山盛りだ。それに加えてユニークなのは、父親のバックパックから見つかったノートに書かれていた「Happiness Quotient(幸福指数)」である。
Adamは期待と幸福度の関係について分析し、期待を低めたほうが幸福度が上がるという仮定を立てて性格が異なる双子のJohnとMiaを使って幸福指数をテストしてきたのだった。父親と最も近しい関係にあったのは自分だと信じていたMiaは、ノートに書かれた自分の評価を読んで複雑な心境になる。
作者のAngile Kimは、Eugeneの母親と同様にティーンの時に韓国から米国に移住したアジア系移民である。欧州からの白人であればキュートだと思われるのに、アジア系の場合は英語が堪能ではないと知能が低いと思わる。その悔しさを体験した人であればうなずく箇所はかなりあるだろう。それに関連して、言葉を発することができないために知能が低いと決めつけられてきたEugeneがずっと言語を使って思考してきたこととか、考えさせられることが多い小説である。
この小説の背後には非常に多くの研究があり、作者の努力を感じるのだが、脚注が多いMiaのこだわり思考についていくのは少々疲れた。
また、どんでん返しだらけのサスペンスだが、ミステリだと思って読むと結末に不満が残るだろう。ゆえに、社会問題を扱った家族ドラマだと思って読むことをおすすめする。