ただの幽霊屋敷ホラーと思っていたら、最後に意外な本性を顕にする優れモノ The September House

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作者:Carissa Orlando
Publisher ‏ : ‎ Berkley (September 5, 2023)
Hardcover ‏ : ‎ 352 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 0593548612
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0593548615
対象年齢:一般(PG15+)
読みやすさレベル:8
ジャンル:ホラー、サスペンス
テーマ、キーワード:幽霊屋敷、連続殺人、幽霊、ドメスティック・バイオレンス、ダークユーモア

MargaretとHalの夫婦は、高齢期にさしかかって初めて理想の自宅を手に入れた。素晴らしいビクトリア様式の邸宅が信じられないほど廉価だったのには理由があった。この屋敷には幽霊が何人も棲み着いていて、特に9月になると超常現象がひどくなる。壁からは血が滲み出るし、常連以外の幽霊も現れ、地下室からは悲鳴が響く。

普通の人なら1日でも我慢できない家だが、Margaretはこの家から離れるつもりはまったくない。Margaretは難しい人間の取り扱いには慣れている。幽霊屋敷も、幽霊屋敷に住む幽霊も、扱い方さえ間違えなければ共存できる自信があった。でも、夫のHalは4年で我慢の限界に達したようで家を出て音信不通になってしまった。

娘のKatherineは父親とあまり仲が良くなく、大学に入学してからはほとんど実家に戻らずにいるのだが、長期にわたって父親からの連絡がないことを心配し、Margaretを訪問すると言い出した。ちょうど9月なので家の幽霊たちが暴れる時期である。家に来ないよう説得しようとするが、止めようとすればするほど娘は訪問することを主張する。

初めて両親の新居を訪問したKatherineは、久しぶりに会った母の言動がおかしいことに気づき、認知症だと思い込む。Margaretは幽霊の存在を娘に知られないために工夫を凝らすが、そのために睡眠不足になり、脳が働かない。幽霊による傷を「自傷」だと誤解されるようになり、そのうちに自分で自分の正気も疑うようになる。

Katherineが父親の失跡を警察に届け出したために、事態はだんだん深刻になり、September Houseの幽霊たちも大胆になっていく…。

今年の幽霊屋敷ものではたぶん一番ユニークで傑作。

何よりもMargaretのキャラが光っている。最初のうち読者はMargaretを「天然ボケの主婦」、あるいは「長年夫からガスライティングされて正常な判断ができない主婦」とみなしてしまうかもしれない。それらは間違ってはいないのだが、Margaretはそれを乗り越えて超人的な悟りを身に着けている。おどろおどろしい幽霊ですら、Margaretの悟りの前にはパワーを失う。

残酷な連続殺人の部分は(ホラーのジャンル嫌いの私にとっては)気分が悪いのだけれど、奇妙にクレバーなユーモアたっぷりで、しかもある意味胸がすく復習ものでもある。

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