ラスタファリ信奉者の父の抑圧からついに逃れ、アメリカで自立を成し遂げた女性の回想録 How to Say Babylon

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作者:Safiya Sinclair
Publisher ‏ : ‎ 37 Ink (October 3, 2023)
Language ‏ : ‎ English
Hardcover ‏ : ‎ 352 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 1982132337
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1982132330
対象年齢:一般(PG12)
読みやすさレベル:7
ジャンル:回想録、メモワール
テーマ、キーワード:ジャマイカ、ラスタファリ、男性優位の思想、女性の抑圧、宗教、毒親

京都で大学を卒業する前後にボブ・マーリーを知ってその音楽にぞっこん惚れ込んだ私と、(現在知られている限りでは)ボブ・マーリーの最後のコンサートでの唯一の写真を撮影した夫は、何十年もレゲエ音楽を愛してきた。2022年末にはジャマイカを訪問してマーリーを発掘したアイランド・レコードのクリス・ブラックウェルが経営するリゾート2つでバケーションをした。その近くにラスタファリのコミュニティがあり、現地のガイドさんも彼らについて少し話してくれたのだが、私たちにとってラスタファリとはボブ・マーリーの思想であり、ラスタは「自然主義でのんびり、ゆったりした人たち」という印象しかなかった。

けれども2023年刊行されたこの回想録を読んで、私の中でのラスタファリのイメージはすっかり変わってしまった。

この回想録の作者Safiya Sinclairの父は熱心なRastafari信奉者であり、彼にとってvirtuous(純潔、道徳的)なラスタファリの家族を作ることは人生での重要な目標だった。Safiyaが幼い時から教え込まれたのは「unclean woman(清くない女、つまり汚れた女)になってはならない」ということだ。父親がunclean womanの例として挙げたのは母親の妹Audreyだった。化粧をし、大きなイヤリングをつけ、ショートパンツから生足を出し、髪をストレートにし、肉を食べ、ラム酒を飲む若い女のAudreyは典型的なJezebel(イゼベル、ふしだらな女)だと。

ラスタファリの父親は西洋の文化とそれに影響を受けた文化も全て「腐敗」だと敵視していた。その腐敗がある外の世界はBabylon(ラスタファリの教えでは「不条理な権力」といった意味でよく使われる)だと。

Babylonを排除するためにSafiyaときょうだいは両親ときょうだい以外の人との交流を禁じられる(キリスト教徒の家族も含む)。学校に通学することは許されていたが、友達を作ることは禁じられていた。肌を出すことだけでなく、髪を切ることや梳くことも禁じられていたので学校では変わり者扱いされていたが、それでもきょうだいたちは父のほうが正しいと信じて育った。

しかし勉強ができるSafiyaたちは次第に父の考え方に疑問を懐きはじめ、反抗心を持つようになる。母親や娘には純潔を保つことを押し付けているのに、レゲエミュージシャンの彼はバビロンの典型のような観光ホテルでショーをしている。母親とは正式に結婚していないのに母が家族と会うことも許さずに孤立させ、貧困を強いている一方で愛人を何人も作っている。

父の理不尽な抑圧に気づいてそこから離れようとしてもそれは簡単なことではなかった。何度も挫折し、何度も失意を経験しながらも、Safiyaはアメリカ留学の方法を見い出し、一進一退でついに自立を果たす…。

ラスタファリの男性も「生理中の女はunclean」という考え方を持っていて、まだ生理がきていない子供のSafiyaにまでそう思い込ませているというのはかなりショックだった。モロッコのマラケシュを訪問した時に雇った現地ガイドさん(男性)が「男が生理中の女に触れたら汚れるので、清めの儀式をしなければならない」とこっちが尋ねてもいないのに熱心にその手法を説明したのがすごく不愉快で今でも覚えているのだけれど、この回想録でもそれが頭に焼き付いてしまった。

どの宗教(思想)でも支配者によって狭い世界に閉じ込められ、選ぶ権利を奪われた人たちは外部に届く声を持たない。この回想録がなかったら、私はラスタファリの実際の家族の事情についてずっと知ることがなかっただろう。

作者がアメリカで詩人として成功を収めたことで、抜け出したい状況にいる読者は希望をいだけたのではないかと思う。場所も宗教も異なるが、Tara WestoverのEducatedを連想させる回想録だった。

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