Month: October 2009

Giller Prizeショートリスト発表!

カナダで最も権威ある文学賞のScotiabank Giller Prizeが最終候補作(ショートリスト)を発表しました!今夜は英国のブッカー賞、あさってはノーベル文学賞と忙しい毎日です。 それにしても、びっくり。AtwoodのThe Year of FloodやPaulette JilesのThe Colour Of Lighting(読者評価は最も高い)などロングリストのときに有力視されていた作品の殆どが外れちゃったのですから。 残ったのは次の5作です。 この中で現在までに米国で出版されているのはたった2作です。ほらね、日本の皆さん。カナダとアメリカ合衆国は別の国なんですよ〜。 The Disappeared…

ロマン・ポランスキー赦免の嘆願書に署名した作家とアーティストたち

32年前、44歳のときに13歳の少女をレイプした罪でロサンジェルスで逮捕され、服役前にフランスに逃亡した著名な映画監督Roman Polanski(ロマン・ポランスキー)のことをご存知の方は多いと思います。これまで逮捕の可能性がある国の訪問を避けて来たポランスキーですが、先月29日にスイスのチューリッヒ空港に到着したときにスイス警察に逮捕されました。 ナチスドイツの迫害をいき伸び、妊娠中の妻シャロン・テートを殺害されたポランスキーの精神的なダメージとはどんなものなのか想像もできません。また、当時13歳だった犠牲者のSamantha Geimerは"I have survived, indeed prevailed, against whatever harm Mr. Polanski may have…

ブッカー賞いよいよ今夜発表!

英国のThe Man Booker Prizeが現地時間で今日の午後10時に発表されます。オンラインカジノの予想では、初期にはHilary MantelのWolf Hallがダントツ1位で次がSarah WatersのThe Little Strangerでした。ところが、最終候補(ショートリスト)発表後Simon MawerのThe Glass Roomが激しく追い込み、最終的に2位に食い込んだとのことです。 さて、みんなの予想通りにWolf Hallが逃げ切るのか、それともThe Glass…

今年最大の「ゴーストライターの名前をちゃんと併記しろよ!」的自伝

オバマ大統領就任をきっかけに、読むに耐えられないようなくだらない保守派の本がベストセラーになり始めたのは、これまで本を読まなかった人々が読書を始めたということなのでしょう。考えようによってはめでたいことです。 彼らが11月17日の発売を待ちきれずにAmazon.comに注文しているのが、共和党の副大統領候補だったSarah Palinの自称自伝のGoing Rogue(ゴーストライターに「私はね…」と話しただけでPalin本人は一字も自分で書いてはいない+真実よりも創作が多いと思われる回想)です。1ヶ月も前だというのに既にAmazon.comでトップに躍り出ています。 http://rcm.amazon.com/e/cm?lt1=_blank&bc1=FFFFFF&IS2=1&npa=1&bg1=FFFFFF&fc1=000000&lc1=0000FF&t=yofaclja-20&o=1&p=8&l=as1&m=amazon&f=ifr&md=10FE9736YVPPT7A0FBG2&asins=0061939897 興味深いのは、この本がKindleほか電子書籍では販売されないということです。 TheBigMoney.comのWhy Gig Books Still Matterという記事によると、有名人の伝記はその人の強力なオーラを伝えるオブジェ、つまりtalisman(護符)としての価値が高いので、「読む」ことより「持つ」ことに意味があるらしいのです。電子書籍では読んでいるときに他人に見せびらかせないし、コーヒーテーブルの上に飾ることもできません。ですから本として買う人のほうが多いわけです。9.99ドルという廉価な電子書籍にしなくても十分売れることがわかっているから、出版社は強気で「紙媒体のみ!」と決断できるのです。 ところで冒頭で人々が「読書を始めた」と書きましたが、訂正する必要があります。護符として本を買っているのだとしたら、読む必要はないわけです。だいいちPalin本人は1字も自分で書いていないのですからね。まともな人ならゴーストライターの名前を(小さくても)表紙に出しますが、Palinの本にはそれが見当たりません。そうですね。護符ですから仕方ありません。 でも、ゴーストライターへの同情は無用です。Gawkerなどによると、Lynn Vincentは、これまでキリスト教保守派の福音主義に基づいたちょっとオツムの調子を疑うような記事を書いてきたジャーナリストらしいのです。この最強のチームが書いたGoing Rogueは、ノンフィクションではなくフィクション(パラノーマル・ロマンス)として読むとがぜん面白くなるかもしれません。…

「クリスチャン・ロマンス」ってどんなロマンスなの?

ブログ読者の方からロマンス分野でよく見かける「Christian Booksとはどういうものか?」という質問をいただきましたので、ここぞとばかりに今日のテーマにさせていただきました。 ロマンスブックの定義については以前にも簡単にご説明しましたが、その中でもアメリカ合衆国独自の存在が「クリスチャン・ロマンス」です。マイナーな分野だと想像されるかもしれませんが、 Book Expo Americaに行くと、専門の大きなブースがあってびっくりします。それほど読者が多く、売れているカテゴリーなのです。この分野だけの出版社もありますし、ハーレクイーンのような大手に属するSteeple Hillといった出版社もあります。 ヒロインとヒーローが障壁を乗り越えて最後にハッピーエンドになるのは他のロマンスブックと共通していますが、「クリスチャン・ロマンス」としての特徴はだいたい次のような感じです。 1)ヒロインが男性との関係を通じて人生と自分の存在意義を見いだす。女性は純粋無垢で男性に尽くすタイプ、男性は高圧的で筋肉もりもりのマッチョが多い。(個人的には、登場人物に深みや意外性がないのがロマンスブックの最大の難点) 2)すべてのストーリーの背景にある重要なテーマ:God’s Redeeming Love(神の贖罪の愛) 3)宗教的な葛藤がプロットの中心になる。多くの場合、主要人物がキリスト教の教義に基づいた愛を受け入れることで過去の罪を贖罪することができる。 4)教義に背く非道徳的な行為は文中に出てこない:例えば、婚前交渉、バイオレンス、罵り言葉(f**k、sh*t, h*ll)、ドラッグ、など。…

他人の心を操ることができる美しいモンスターの苦悩—Fire

Kristin Cashore480ページ(ハードカバー)Dial (October 5, 2009年10月5日発売ヤングアダルト/ファンタジー http://rcm.amazon.com/e/cm?lt1=_blank&bc1=FFFFFF&IS2=1&npa=1&bg1=FFFFFF&fc1=000000&lc1=0000FF&t=yofaclja-20&o=1&p=8&l=as1&m=amazon&f=ifr&md=10FE9736YVPPT7A0FBG2&asins=0803734611 http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?lt1=_blank&bc1=FFFFFF&IS2=1&npa=1&bg1=FFFFFF&fc1=000000&lc1=0000FF&t=yukariscott-22&o=9&p=8&l=as1&m=amazon&f=ifr&md=1X69VDGQCMF7Z30FM082&asins=0803734611 (注:これは5月に入手したAdvanced Reader’s Copyの感想です) ベストセラーとなったデビュー作Gracelingの隣国The Dellsが舞台。時代がGracelingより前なので、いわゆる「前編」と呼ぶべきだが、物語としては完全に独立している。ただし、Gracelingを読んでいないとプロローグでつまずくことになるので、まずGracelingを読むことをお勧めする。 Gracelingとは険しい山岳を隔てているためにまったく交流がない王国The Dellsには、左右の目の色が異なるGracelingはいないが、モンスターと呼ばれる不思議な生物たちがいた。モンスターたちはその対となる動物とそっくりだが自然界にはない鮮やかな彩りであり、対の動物よりも美しく凶暴である。そしてモンスター同士の血と肉を好む特性もある。人間のモンスターは髪の色が鮮やかで、異常に美しく、他人の思考を操作する能力も備わっている。だが、いろいろな理由で人間のモンスターはほぼ絶滅状態になり、生き残っているのは若い女性のFireだけだった。 Fireの亡き父Cansrelはモンスターの残酷さを象徴する人物で、ただの娯楽として他人の心を操り、Fireの母を含む多くの者の人生を破壊してきた。Cansrelの死後は人徳ある貴族のBrockerがFireの保護者の役割を勤め、彼の義理の息子ArcherはFireに何度も結婚を申し込んでいた。けれども、Fireが産む子は優性遺伝で必ずモンスターになる。父の犯した多くの罪を知るFireは、そんなモンスターを世に生み出さないために一生結婚も子供を産むこともしないと決意している。…

「王様の耳はロバの耳!」という秘密を閉じ込めてアートにしたPostSecret

Frank Warren288ページ(ハードカバー)William Morrow2005年11月29日初版絵はがきアートを集めた写真集/告白集 http://rcm.amazon.com/e/cm?lt1=_blank&bc1=FFFFFF&IS2=1&npa=1&bg1=FFFFFF&fc1=000000&lc1=0000FF&t=yofaclja-20&o=1&p=8&l=as1&m=amazon&f=ifr&md=10FE9736YVPPT7A0FBG2&asins=0060899190 http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?lt1=_blank&bc1=FFFFFF&IS2=1&npa=1&bg1=FFFFFF&fc1=000000&lc1=0000FF&t=yukariscott-22&o=9&p=8&l=as1&m=amazon&f=ifr&md=1X69VDGQCMF7Z30FM082&asins=0060899190 PostSecretという興味深いアートプロジェクトのことを知ったのは、実は娘が通う高校でのことでした。廊下に張り出されたコラージュのようなアートを近くで眺めた私は、しばし目を疑いました。誰かが書いたはがきを集めたものだったのです。内容がまた凄いのです。あるはがきの中心には大きなベーグル(ドーナッツ型のパン)の写真があり「私は太るのが怖くて炭水化物をもう何年も食べていない」というコメント。「私は友達のボーイフレンドをわざと盗んだ」とか「成績が良いから親は僕が良い生徒だと思っているけれど、本当は二重生活を送っている」といった凄い告白も並んでいます。「こんなの高校に貼っていいの?」と娘に訊ねた私は、「PostSecretのこと知らないの?」とかえって馬鹿にされました。 このプロジェクトの発案者はFrank Warrenという普通のビジネスマンです。精神的な底辺からアートで癒され、立ち直ったWarrenは、他人に伝えたことのない秘密を告白するはがきを自分宛に送って欲しいというハガキを作り、見知らぬ人々に配りました。それを集めたものが話題になり、Warrenのプロジェクトは展示、ブログ(左の写真)、本のメディアでそれぞれ大人気になりました。 この本は最初に出版されたものなので、内容も一番オリジナルです。互いの顔が見えないように隠された結婚式の写真に添えられた「I know he doesn’t love me anymore」という悲痛な告白や「He’s…