September 2014

思わずホロリ。スウェーデン版「不機嫌じいさん」の意外な人情ドラマ『A Man Called Ove』

著者:Fredrik Backman
ペーパーバック: 304ページ
出版社: Sceptre
ISBN-10: 1444775804
発売日: 2014/7/3
オリジナル言語:スウェーデン語
適正年齡:PG(どの年齡でも問題はないが、対象は中学生以上)
難易度:中級レベル(分からない単語がたまに出てくるだろうが、文章は非常にシンプル)
ジャンル:人情ドラマ、ユーモア
キーワード:加齢、孤独、不機嫌じいさん、コミュニティ、家族、ふれあい

共同住宅地の監視役を自ら任命している59歳のOveは、他人の生き方が気に入らなくてたまらない。車の乗り入れ禁止だと書いてあるのに平気で乗り入れるし、禁止の標識がある場所に自転車を駐輪する。
Saabという素晴らしいスウェーデンの車があるというのに、ドイツ車や日本車なんかを運転する気取った奴らばかりで、iPadとやらいうコンピュータは、あんなに高いのにキーボードすらついていないのだ!いったい、この世の中はどうなってしまったのか?

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太平洋戦争で日本軍捕虜になったオーストラリア人の生涯を通して人間の本質を語る力作『The Narrow Road to the Deep North』

著者:Richard Flanagan
ハードカバー: 464ページ
出版社: Chatto & Windus(米国ではKnopf)
ISBN-10: 0701189053
発売日: 2014/7/3
適正年齡:PG 15(高校生以上。性的なシーン/残酷なシーンあり)
難易度:上級レベル(時間と視点が飛ぶので、流れを把握しにくいかもしれない)
ジャンル:文芸小説/歴史小説(太平洋戦争)
キーワード:太平洋戦争、東南アジア戦線、日本軍戦争捕虜収容所、泰緬連接鉄道(Thai-Burma Railway)、死の鉄道(Death Railway)、小林一茶、芭蕉、『奥の細道』、『戦場にかける橋』、悲恋
賞:2014年ブッカー賞候補作

邦訳版が2018年になってようやく出ました。

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クラウドアトラスの簡易版のような2014年プリンツ賞受賞作『Midwinterblood』

著者:Marcus Sedgwick
ペーパーバック: 262ページ
出版社: Square Fish
ISBN-10: 1250040078
オリジナル発売日: 2011(英国)
適正年齡:PG12(中学生以上)
難易度:中級レベル(やや難しい単語あり)
ジャンル:YA/ファンタジー(ホラー)/伝説
キーワード:輪廻転生、ラブストーリー
賞:プリンツ賞(2014)、カーネギーメダル候補(2013)

 

2073年、ジャーナリストのEricは謎の花の正体を探るために、よそ者がほとんど訪れないBlessed島に到着する。
島の美しさと人々の親切に包まれて過ごすうちに、Ericは自分が何のために訪問したのかを忘れてしまう。そこで出会った若い女性Merleは彼に何かを伝えようとするが、頭にもやがかかったように何も考えられない。

Ericが知らなかったのは、美しいが不気味な雰囲気が漂うこの島で、10世紀前にある血みどろの儀式が行われたということだ。そのときに引き裂かれた二つの魂は、1000年間姿かたちを変えて何度も出会うことになる。

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第六絶滅期はすでに始まっている。次の「アンモナイト」は人類だ。『The Sixth Extinction』

著者:Elizabeth Kolbert
ハードカバー: 319ページ
出版社: Henry Holt & Co
ISBN-10: 0805092994
発売日: 2014/2/11
適正年齡:PG15(中学生でも読むことはできるが、背景にある科学を理解するためには高校生以上)
難易度:中級〜上級(文章そのものは中級レベル。単語と文章の理解では上級レベル)
ジャンル:一般ノンフィクション/博物学(natural history)/ルポ
キーワード:第六絶滅期、絶滅危惧種、自然科学、恐竜、アンモナイト

2014年「これを読まずして年は越せないで賞」候補作

 

「絶滅種」という言葉で日本人がすぐに連想するのは、恐竜、マンモス、ドードー鳥といったところだろう。

種の絶滅は小規模では絶え間なく起こってきたが、ある一定の時期に集中して多数の種が絶滅する『mass extinctions(大量絶滅)』が、過去に5度あった。Ordovician-Silurian、Late Devonian、Permian、Triassic-Jurassic、Cretaceous-Tertiary(K-T)【オルドビス紀末、デボン紀末、ペルム紀末(P-T境界)、三畳紀末、白亜紀末(K-T境界)】の中でも、歴史上最大の大量絶滅が起こったのが、P-T境界(約2億5100万年前)のPermian(ペルム紀末)で、96%の種が絶滅した。

Triassic period(三畳紀)後半からJurassic(ジュラ紀), Cretaceous(白亜紀)に栄えた恐竜が絶滅したのが、最後のCretaceous-Tertiary(白亜紀末)だ。

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他人の「痛み」への共感をテーマにした注目のエッセイだが。。。『Empathy Exams』

著者:Leslie Jamison
ペーパーバック: 226ページ
出版社: Graywolf Pr
ISBN-10: 1555976719
発売日: 2014/04
適正年齢:PG 15(高校生以上)
難易度:最上級レベル(難解な表現が多く、文章もまわりくどい)
ジャンル:エッセイ
キーワード:empathy, 共感、感情移入、医学生のトレーニング、難病
賞:Publishers Weeklyの2014年春トップ10エッセイ

 

アメリカのメディカルスクール(医学大学院)では、学生をトレーニングするために患者の演技するアルバイトを雇う。アルバイトに雇われた役者(medical actor)は、自分が扮する患者についてのディテールを受け取るのだが、それは病名だけではなく、家族から仕事まで詳細にわたるものである。
著者のLeslie Jamisonは、ハーバード大を卒業した後、このmedical acotorのアルバイトをしていた。そのときの体験と、患者としての体験を元に書いたエッセイだという。

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シンクロニシティをテーマにしたガーディアン賞候補のミステリ『She Is Not Invisible』

著者:Marcus Sedgwick (Midwinterbloodで2014年プリンツ賞受賞)
ハードカバー: 218ページ
出版社: Roaring Brook
ISBN-10: 1596438010
発売日: 2014/4/22
適正年齡:PG12(中学生以上、性的コンテンツやバイオレンスはない)
難易度:中級〜上級レベル(文章はシンプルだが、難しい単語やコンセプトがある)
ジャンル:YA/サスペンス/冒険
キーワード:全盲のヒロイン、coincident, synchronicity, シンクロニシティ、共時性、カール・ユング
賞:2014年ガーディアン賞(児童書対象)候補

 

ロンドンに住んでいるLaureth Peakの父はユーモア小説の有名作家だ。でも、近年では暗くてシリアスな作品ばかり書いていて、さっぱり売れない。経済的に困ってきているのに、何かに取り憑かれたようにまた暗い作品にとりかかっている。家計を支えるために看護師をしている母親は、子どもの世話と仕事で疲れきっていて、両親の仲はギクシャクしている。

父親が受け取るファンEメールの対応を引き受けている16歳のLaurethは、ある日奇妙なEメールを受け取った。父が作品のアイディアを書き込んでいるノートを見つけたので、そこに書いてある報酬が欲しいというものだ。それ自体は不思議ではないが、Laurethの父はスイスにいるはずなのに、メールの送り主はニューヨークに住んでいるのだ。父が何らかの事件に巻き込まれたと察知したLaurethは、父の安否に無関心な母には内緒でニューヨークに向かうことにする。

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静かに面白く、考えさせられる2014年ブッカー賞候補『We Are All Completely Beside Ourselves』

著者:Karen Joy Fowler
ペーパーバック: 320ページ
出版社: Plume; Reprint版 (2014/2/25)
ISBN-10: 0142180823
発売日: 2013/5
適正年齡:PG14(中学校高学年以上、性的な話題やシーンはあるけれど露骨な描写はない)
難易度:上級レベル(文章はシンプルで読みやすいが、難解な単語が多く、しかも深い含みがある)
ジャンル:文芸小説/サスペンス/スペキュラティブ・フィクション
キーワード:家族関係、心理問題、動物実験、霊長類、歴史
賞: ブッカー賞候補(2014)ネビュラ賞候補(2013), PEN/Faulkner賞受賞(2014)
これを読まずして年は越せないで賞候補(2014)

 

大学生のRosemary Cookeには友だちもいないし、両親とも疎遠で、とても静かに生きている。
でも、昔はとてもお喋りな少女だったのだ。みんなが「うるさくて考えることができないから黙って!」と嫌がるような。

昔は農場がある大きな家に、両親と兄と姉、そして父親の研究所で働く大学院生たちと賑やかに暮らしていたのに、5歳になったときその世界がすっかり変わってしまったのだ。それについて、Rosemaryは語り始める。でも、最初からではなく、「真ん中から」。お喋りだったころ、心理学教授だった父がアドバイスしてくれたように……。

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SFの代表的な賞を総なめした知的で画期的な作品『Ancillary Justice』

著者:Ann Leckie(長篇小説はこれが初めて)
ペーパーバック: 416ページ
出版社: Orbit
ISBN-10: 031624662X
発売日: 2013/10/1
適正年齡:PG12(中学生以上。性的関係に関する表現は出てくるけれど、シーンはない)
難易度:最上級レベル(設定が難しく、ネイティブでも混乱する。よくある単語が通常とは異なる使われ方をしている)
ジャンル:SF
キーワード:スペースオペラ(昔の感覚ではなく)、宇宙船、帝国、闘い
シリーズ(三部作)名:Imperial Radch
賞:Hugo, Nebula, British Science Fiction, Locus、Arthur C. Clarke賞

赤道直下でも10℃以下にしかならない氷に閉ざされた惑星で、Breqと名乗る兵士が探索の旅をしていた。個人的な復讐を遂げるために、ある物を手に入れる必要があったのだ。Breqはその途中で、道に倒れて凍え死にしかけている者を見つける。以前仕事を共にした士官のSeivardenだと気付いたBreqは、自分の目標を達成する邪魔になると知りつつも救助する。だが、SeivardenのほうはBreqに見覚えはない。

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