英国の書店の舞台裏が興味深く、ダークな笑いの背後にある執着がジワジワ怖い心理スリラー Death of a Bookseller


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作者:Alice Slater
Publisher ‏ : ‎ Scarlet (April 25, 2023)
Hardcover ‏ : ‎ 368 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 1613163770
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1613163771
対象年齢:一般(R)
読みやすさレベル:7
ジャンル:心理スリラー
テーマ、キーワード:ロンドン、書店、書店員、true crime(犯罪ノンフィクション、犯罪ドキュメンタリー)、連続殺人
2023年これ読ま候補(角モナさん推薦)

ロンドンにいくつかの支店を持つ書店のひとつで働く若い女性店員Broganは、Broganではなく”Roach”(ゴキブリのcockroachの短い呼び名と同じ)と呼ばれている。Roachは昔から「死」特に「殺人」に興味があり、連続殺人事件のtrue crime(犯罪ノンフィクション)のジャンルばかり読んでいる。そして、支店のマネジメントがいいかげんなことを利用して、勝手に自分が読みたい本を注文してtrue crimeのセクションを作っている。

その支店を立て直すために他の支店から新しいマネジャーと書店員が配置された。Roachは新しく加わったLauraと親友になることを妄想して近づこうとするが、true crimeに異様な興味と情熱を抱くRoachに対してLauraは激しい拒否反応を示す。10年前に連続殺人犯によって母を殺されて孤児になったLauraは、実際に被害者がいる殺人事件をエンターテイメントとして消費するtrue crimeのジャンルを嫌悪していたからだ。

Lauraは自費出版の詩人でもあり、イベントでLauraが母の死の心理的打撃をテーマにした詩を朗読したのを耳にしたRoachは、(Lauraは母の死については恋人の他には打ち明けていなかったものの)「死にとりつかれている同士」と決めつけ、ますますLauraに執着するようになった。

LauraはRoachの執着心の異常さを察知して避けようとするが、書店の仲間もマネジャーもその異常さを理解しない。Lauraは精神的にどんどん追い詰められていく…。

 

実際に被害者がいる連続殺人事件で犯人を特別な存在に仕上げてエンターテイメントにすることへの憤りを描いた小説『Bright Young Women』を読んだばかりだったので、Lauraの心情が理解できるだけでなく、Roachに対する嫌悪感が強くて、彼女のPOV(point of view, 視点)の章を読むのは容易ではなかった。私は心理スリラーのジャンルが大好きなのだが、最近英語圏(特にアメリカ)で流行っているtrue crimeジャンルの本はほとんど読まない。意識的に避けてきたというよりも「読みたい」という気持ちになったことがなかったのだ。Bright Young Womenとこの本を読んでから考えてみたところ、「読みたくない」という気持ちの背後にBright Young Womenの語り手やLauraと同様に「実際に被害者がいる事件をエンタメとして消費すること」への違和感があったようだ。

この本のRoachの思考回路はそもそもふつうの人には理解できないものであり、それが時にはダークなユーモアになっている。「ここで笑う人はいるだろうなあ」と思いつつも、Lauraの視線で読んでいる私にはただその歪みが怖いだけだった。若い頃にストーカーの被害にあった経験が蘇り、Lauraの恐怖を理解しようとしない周囲の人々に対してずっと憤っていた。

エンディングについて詳しくは書かないが、私は今でも怖い。いわゆる嫌ミスのサブジャンルなので、苦手な人は避けたほうがいいかもしれない。

この本のオマケの面白さは書店の日常と人間関係がリアルに描かれているところだ。「これを読まずして年は越せないで賞」の長年の審査員で、Book Kinokuniya Tokyoの店長である角モナさんの、今年の #これ読ま 推薦書なので、「書店の舞台裏ってこうなのか!」と彼らの日常をニヤニヤしながら覗かせていただいた。

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