Month: February 2009

Wicked- ミュージカルとは異なる原作

著者: Gregory Maguire初刊:1995年9月ジャンル:純文学/ファンタジー/SF/社会風刺 「考える」ことを強要する読書体験を求める読者におすすめ http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?t=yukariscott-22&o=9&p=8&l=as1&asins=0061350966&md=1X69VDGQCMF7Z30FM082&fc1=000000&IS1=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=FFFFFF&bg1=FFFFFF&f=ifr&npa=1 http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?t=yukariscott-22&o=9&p=8&l=as1&asins=4797342706&md=1X69VDGQCMF7Z30FM082&fc1=000000&IS1=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=FFFFFF&bg1=FFFFFF&f=ifr&npa=1 今は人気ミュージカル「Wicked」の原作者として有名なMaguireですが、それまではさほど有名ではない児童作家で、6年前まで私の娘が通っている小学校に創作を教えに来てくれていました。彼は茶目っ気がある人物で、教え方もちょっとWickedで可笑しいのです。子供たちはMaguireが自分たちと同じ視点で語ることを肌で感じ、すっかり彼に魅了されていました。 そのようなわけで、私がWickedを読んだのはずいぶん昔のことです。一緒にボランティアで企画に関わっていた先生方はニューヨーク市までミュージカルを観に行ったのですが、私は見逃しています。ただ、観た人の話から判断すると、相当トーンが異なるようです。原作は複雑で暗く、私は、「軽い気持ちでは読めない本だけれど、読み応えがある」という感想を抱きました。私がこの本に好感を抱いたのは、それまでにMaguireの社会観に触れていたからかもしれません。この本は、彼のように取り付きやすい外面にもかかわらず、中身が非常に複雑なのです。 まず、これは誰でも知っている「オズの魔法使い」をドロシーではなく、彼女が殺すことになったWickedな西の魔女Elphabaが主人公の物語です。これだけの説明だと「あら、面白そう」と軽く読めそうな気になりますが、そうはいきません。緑の肌と鋭い牙を持つ危険な赤ん坊のElphabaが学問好きでシリアスな少女に育ち、そしてアンダーグラウンドの革命家や動物の人権運動家になり、ついにWickedな統率者として死を迎えるまでの人生を、相当複雑な宗教・社会・政治的観点から描いています。簡単にElphabを善か悪のカテゴリーに入れることはできないので、それも読者にとってはチャレンジです。この物語を嫌う読者の心情も容易に想像できます。主人公のElphabaに同情を覚える読者はいるかもしれませんが、感情移入は困難です。また、読後に暖かい気分になれる「feel good」なストーリーでもありません。けれども、もし私がこれを学生時代に読んでいたら、「これほどすばらしい本を読んだことはない」と言ったと思うのです。 ミュージカルの原作、という先入観で読むとがっかりするかもしれないので、それとは異なる作品として読んでいただきたいと思います。 ●ここが魅力!単純なハッピーエンドや勧善懲悪、倫理観を押し付ける作品、などに辟易している方にとっては非常に面白く感じる娯楽作品でしょう。ゲイで、パートナーとともに多くの子供を外国から養子に迎えているMaguireだからこそ描ける複雑な社会観を感じます。ともかく、いろいろと考えさせられる本です。 ●読みやすさ ★☆☆☆☆ざっと読み飛ばすことはできませんし、読み飛ばすと良いところが失われます。最初の展開がスローなので、入り込みにくく感じるかと思います。また、長編で、しかも登場人物が多く、名前も覚えにくいのが難点です。ネイティブでも最後まで読みきることができずに投げ出す者がけっこういるようです。 ●アダルト度 ★★★☆☆ セックスシーンはありますが、Twilightシリーズと比べるとさほどでもないという感じです。ただし、政治・宗教など複雑なコンセプトは小学生や中学生にはなかなか理解できないし、面白くもないと思います。高校生以上が対象です。

今週のニューヨークタイムズ紙ベストセラー(ノンフィクション・ハードカバー編)

今週のNYタイムズ紙ベストセラーのノンフィクション・ハードカバーにはあまり動きがないので、今週16位に入った注目の作品のみご紹介します。 Meltdown: A Free-Market Look at Why the Stock Market Collapsed, the Economy Tanked, and…

今週のニューヨークタイムズ紙ベストセラー(フィクション・ハードカバー編3月1日)

今週のNYタイムズ紙ベストセラーベストセラーのリストでは、おなじみのベストセラー作家の新作とシリーズものが多く、個人的に注目の作品はChristopher MooreのFoolだけです。 いつも腹立たしく思うのですが、どうして読者評価がこれほど低い作品ばかりニューヨークタイムズのベストセラーに入るのでしょう?それと、質の低いシリーズものばかり。なぜならば、書店がこういう本ばかり山積みするからです。読者は山積みされている本に手を伸ばしますが、置いていない優れた本は買えません。すでに経営が困難になりつつある書店がこういう態度を続けていると、(私のように)読者は書店を捨ててAmazonに移ってゆくでしょう。新登場のものだけリンクを載せています。その他の作品は過去の「ベストセラーリスト」をご参照ください。 1. The Associate by John Grisham弁護士モノで有名なジョン・グリシャムの新作。読者評価は非常に低い。 http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?t=yukariscott-22&o=9&p=8&l=as1&asins=0385517831&md=1X69VDGQCMF7Z30FM082&fc1=000000&IS1=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=FFFFFF&bg1=FFFFFF&f=ifr&npa=1 2. Run For Your Life…

Graceling-ヤングアダルトのファンタジーファンに大人気

著者: Kristin Cashore発売日:2008年10月1日ジャンル:ファンタジー/ヤングアダルト/ロマンス(やや) 強くて美しく、けれども非社交的で怒りっぽいヒロインの自分探しの冒険 http://rcm.amazon.com/e/cm?lt1=_blank&bc1=FFFFFF&IS2=1&npa=1&bg1=FFFFFF&fc1=000000&lc1=0000FF&t=yofaclja-20&o=1&p=8&l=as1&m=amazon&f=ifr&md=10FE9736YVPPT7A0FBG2&asins=0547258305 http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?lt1=_blank&bc1=FFFFFF&IS2=1&npa=1&bg1=FFFFFF&fc1=000000&lc1=0000FF&t=yukariscott-22&o=9&p=8&l=as1&m=amazon&f=ifr&md=1X69VDGQCMF7Z30FM082&asins=0547258305 中世を思わせる架空の王国では、右と左の目の色が異なる「Graceling」にはある特定の才能がある。青い目と緑の目を持つKatsaの才能は「殺し」。幼いときに自己防衛で叔父を殺して以来、王子であるいとこ以外に友と呼べる者も心を許せる者もいない。この才能ゆえに王から脅しの使徒として使われているKatsaは、命令に背く選択が許されない立場とはいえ自分の行動を恥じ、平和のための秘密組織を運営している。隣国の王の年老いた父が誘拐されるが、どの国の王が命じたことなのか誰にもわからない。その国の末っ子の王子で金と銀の目を持つGracelingのPoとKatsaは、この謎を解くために危険な旅に出る。 ヒロインのKatsaは他人の怠慢や弱音が我慢ならず、すぐに苛立ち、けんか腰になる癖がある。心の奥底では友人や友情を求めているくせに、それを得るためにどうしたらよいのかは分からない。そもそも他人の心境を理解することができないし、したいとも思わないのだ。こういうところは、アスペルガー患者の回想記を読んでいるような感じがしないでもない。彼女に他人を信頼することを教えたのが、Poである。Poのキャラクターは、たぶん娘や彼女の友人たちの理想の男性像に近いだろう。強い戦士だが、女性のKatsaに劣ることは平然と認めるし、欠陥だらけのヒロインを受け入れる懐の深さがある。つまり、真に自信がある男性なのだ。唯一困った特徴は彼のGracelingとしての才能である(これは内緒)。 私の娘やその友達、そしてAmazon.comの読者の評価からは、女子中学生から高校生に長く愛されるロングセラーになることが予測される良質のファンタジーである。 ●ここが魅力!これも高校生の娘とその友人たちのために探してきたヤングアダルト向けのファンタジー+ロマンス本です。ロマンスの要素はあるのですが、普通のロマンスと異なるのはヒロイン自身が普通のロマンスを拒否するところです。つまり、王子様に愛されて、結婚して、めでたし、めでたし、というエンディングではなく、ヒロインが自分を見失わずに成長する物語なのです。娘とその友人たちのお気に入りの本のひとつになりました。また、本を読んだ後で母娘であれこれ感想を話し合えるのもよいところです。 ●読みやすさ ★★★☆☆ファンタジー特有の造語が多いために読みにくい印象を受けるかもしれませんが、基本的には簡潔で読みやすい文です。Twilightが読めた人であれば難なく読めるでしょう。 ●アダルト度 ★★★☆☆マイルドですがセックスシーンがありますので、小学生向けではありません。14歳以上のヤングアダルトが対象です。 ●これが気に入った方はぜひ続編(前編)Fireをどうぞ http://rcm.amazon.com/e/cm?lt1=_blank&bc1=FFFFFF&IS2=1&npa=1&bg1=FFFFFF&fc1=000000&lc1=0000FF&t=yofaclja-20&o=1&p=8&l=as1&m=amazon&f=ifr&md=10FE9736YVPPT7A0FBG2&asins=0803734611 http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?lt1=_blank&bc1=FFFFFF&IS2=1&npa=1&bg1=FFFFFF&fc1=000000&lc1=0000FF&t=yukariscott-22&o=9&p=8&l=as1&m=amazon&f=ifr&md=1X69VDGQCMF7Z30FM082&asins=0803734611

もし犬がミステリーを書いたとしたら… Dog On It

著者:Spencer Quinn 発売日:2009年2月10日 カテゴリー:ミステリー/サスペンス 犬好きによる犬好きのためのミステリー登場! ナレーターのChetは跳躍力にかけては誰にも負けない大型の雑種犬。警察犬学校の卒業寸前にその跳躍力(と彼が敵視する猫)のおかげでとある“事故(これについては謎のまま)”を起こし、警察犬になれなかったという過去がある。Chetが誰よりも愛するご主人のBernieも、エリート陸軍士官学校のWest Pointを卒業したにもかかわらずさえない私立探偵で、離婚した元妻からの嫌がらせに耐えつつ、大嫌いな浮気、離婚ケースを引き受けている。そんなとき、彼らは女子高校生の失跡事件の捜査を依頼される。これがまた、失跡なのか失跡でないのか、誘拐なのか家出なのかはっきりわからない。だが、少なくともこれは浮気や離婚ケースではない。本物の探偵業だ。 犬がナレーターなもので、人間の会話の言い回しがわからなくて混乱したり、テーブルの下に落ちている食べ物に気が散ったり、突然穴を掘り始めたり、普通のミステリーのようなわけにはゆかない。そこがまたリアルで面白い。ときに腹を抱えて笑い、ときにしんみりし、気がついたらChetさえ無事でハッピーであれば消えた少女やその両親なんかどうでもいい、と思っている。ミステリーを求める人はプロットに不満を抱くかもしれないが、犬がミステリーを書いたとしたら、これ以上の傑作はない。シリーズになることが期待される。 なお、この本に関するブログもChetが書いている。 ●ここが魅力! これまで動物がナレーターの映画や本は沢山ありましたが、動物の姿を借りているだけで、人間の思考回路を離れることができないものばかり。それ(特にディズニーの子供向け映画)に辟易してきた方はDog On Itに拍手喝采することでしょう。 ともかくChetの思考回路が犬らしくて面白いのです。犬といっても、チワワのようなペットではなく、警察犬としてトレーニングされてきたエネルギーレベルの高い大型犬ですから、気に入らない状況になると吠えたり、牙をむいたりします。犬が苦手な人間をすぐに見抜いて見下げるところもあれば、おやつをくれる人に即座に好意を抱く単純さもあります。Chetの思考を追うだけでも十分読む価値がある楽しい本です。 ●読みやすさ 中〜やや簡単…

今週のニューヨークタイムズベストセラー(ハードカバー・ノンフィクション編)

これも遅ればせながら今週のNYTベストセラーリスト(ハードカバー・ノンフィクション編)です。 今週のニューヨークタイムズベストセラーリスト(ハードカバー・ノンフィクション編) 初登場で注目に値するのは次のThe Next 100 Years。米国の保守派たちは、こういう本が出るたびに、「アンチアメリカン」、「非国民的」と反論するようで、それが不思議です。 http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?t=yukariscott-22&o=9&p=8&l=as1&asins=038551705X&md=1X69VDGQCMF7Z30FM082&fc1=000000&IS1=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=FFFFFF&bg1=FFFFFF&f=ifr&npa=1 そしてもう一作は、オバマ大統領の就任演説(リンカーン大統領の2期目の就任演説などのおまけつき)です。 http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?t=yukariscott-22&o=9&p=8&l=as1&asins=0143116428&md=1X69VDGQCMF7Z30FM082&fc1=000000&IS1=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=FFFFFF&bg1=FFFFFF&f=ifr&npa=1

今週のニューヨークタイムズベストセラー(ハードカバー・フィクション編)

旅行中で遅れて申し訳ありません。今週のNYTベストセラーリストです。 今週のニューヨークタイムズベストセラー(ハードカバー・フィクション編) 他は過去の洋書ニュースをご参照いただくとして、新登場はAdriana TrigianiのVery Valentineだけのようです。 http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?t=yukariscott-22&o=9&p=8&l=as1&asins=0061668990&md=1X69VDGQCMF7Z30FM082&fc1=000000&IS2=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=FFFFFF&bg1=FFFFFF&f=ifr&npa=1 これはマンハッタンを舞台にしたイタリア系アメリカ人一家のサガを描く三部作の第一部です。 Adriana Trigianiの作品は、Lucia, Luciaだけしか読んだことがありませんが、個人的な感想は「この本がなぜ売れるのか理解できない」というものでした。特にドラマチックな展開があるわけでもなく、文章が美しいというわけでもなく、テーマが新しいというわけでもない、普通の人生ドラマなのです。かといって、悪い本でもありません。何もすることがなく、そしてあまり難しいことを考えたくもなく、バイオレンスやホラーを避けたい人が安心して読める本、といった感じです。中高年の女性に人気がある作家のようです。

ロマンスのカテゴリーには入れたくないラブ・ストーリー

「ロマンス」と呼ぶと、フォーミュラに沿って書かれたハーレクイーンロマンスを連想されてしまいそうなので、ときどきちょっとカテゴリー分けに悩むことがあります。ハーレクイーンロマンスは、「escape read(現実から離れて楽しむための本)としては、展開に裏切りがなくてそれを求める読者には良いと思います。けれども、独自の世界を持ち、読後に余韻を残すラブストーリーをそれと一緒にするわけにはゆきません。でも、他にカテゴリーの表現方法がないので、ロマンスのカテゴリーに入れている作品があります。 というわけで、次のリストは、ロマンスのカテゴリーには入れていますが、それ以外の要素が強いラブストーリーです。Twilightを読み終えて、「次は何を読もう?」と思っている方、「Twilightなんて甘いロマンスは読みたくない」、という方、どちらにもおすすめです。 ロマンスのカテゴリーに入れたくないラブストーリー 読みやすさとしては、★★★から★★のレベルです。 もっとも読みやすいのを「Twilight」と設定して、次がThe China Garden, Poison Study,Ferney, Time Traveler’s Wife, Outlander(これは長編ですが、とても読みやすい文です), Silent…