November 2013

エイリアンの視点で人間性の素晴らしさを再認識できる心温まるSF『The Humans』

著者:Matt Haig

ハードカバー: 304ページ

出版社: Simon & Schuster

ISBN-10: 1476727910

発売日: 2013/7/2

適正年齢:PG15(高校生以上)詳細な描写はないが、性的シーンと話題あり

難易度:中級レベル(数学や科学に関する難しい表現は出てくるが、わからなくて当然のシチュエーションなので気にせずに読める)

ジャンル:SF/現代小説

キーワード:エイリアン、数学(リーマン予想、素数)、人間関係、愛情、ユーモア、心温まる

ケンブリッジ大学の数学教授のAndrew Martinが、数学における最も重要な未解決問題であるリーマン予想をついに解いた。この問題を解くことで、人類の知識と技術は大きく発展することが予測される。だが、人類は知識と技術を侵略と殺戮に使ってきた。こんな本質を持つ人類が地球外に侵略をするようになると、宇宙全体の安全が脅かされる。そこで、危険な未来の芽を摘み取るために、遠い惑星からエイリアンが訪れた。

リーマン予想の知識を完全に拭い取る使命を持って地球を訪問したエイリアンは、Andrew Martinを殺害して彼にとって変わる。彼のコンピュータから情報を削除するだけでなく、予測を説いた後に接触した人物をすべて抹殺するのが彼の使命だった。

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親を選べない子供たちの苦悩と癒やしをリアルに描いたYAの傑作『Reality Boy』

著者:A. S. King

ハードカバー: 368ページ

出版社: Little, Brown Books for Young Readers

ISBN-10: 0316222704

発売日: 2013/10/22

適正年齢:PG15(高校生以上)、全体を通して性行為に関するテーマがあるが、詳細な描写はない。

難易度:中級レベル(罵り言葉やスラングなどが多い。基本的には平易な英語。入り込みやすい)

ジャンル:YA(ヤングアダルト)、青春小説、文芸小説

キーワード:リアリティ番組、子供の心理的虐待、親子関係、心の傷と癒やし、成長物語、風刺

 

5歳のときにリアリティ番組に登場したGeraldは、16歳になった今でもその後遺症をひきずっている。

Geraldは生まれたときから6歳年上の姉Tashaに虐待されていたが、その姉だけを溺愛する自己中心的な母により、リアリティ番組で全米で最も悪名高い問題児に仕立てられてしまった。虐待する姉と、その虐待から守ってくれない両親への怒りを、いたるところでウンチするという行動で表現していたのだが、それがテレビでは大いにウケたのだ。そのために、Geraldは高校で「crapper(ウンチをする奴)」と呼ばれて虐めを受けている。

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北朝鮮の市民をマジックリアリズムで描いた『The Orphan Master’s Son』

著者:Adam Johnson

ペーパーバック: 480ページ

出版社: Random House Trade Paperbacks

ISBN-13: 978-0812982626

発売日: 2012/8/7

適正年齢:PG15(高校生以上、バイオレンスあり)

難易度:最上級レベル(非常に難しい。英語ネイティブでも把握するためには努力が必要)

ジャンル:文芸小説/風刺小説

キーワード:マジックリアリズム、北朝鮮、スリラー、ヒロイズム、愛

2013年ピューリッツァー賞

北朝鮮は外部からの観光客も受け入れているが、北朝鮮人ガイドの付き添いで特定の場所を訪問することしか許されていない。そのような観光では、北朝鮮国家が見せたいイメージだけしか見ることができない。一般市民が外国人と直接話すことは違法であり、外国人が彼らについて知る機会はもちろんない。北朝鮮に興味を抱いていた著者Adam Johnsonは、自ら北朝鮮を訪問したときにそれを強く実感し、入手可能な情報を集めたうえで想像力を駆使し、マジックリアリズムの手法で、北朝鮮の「ふつうの個人」を描いたのである。

3つの異なる語り手による話が交錯し、現実と幻想が入り交じるこの小説は、ネイティブでも混乱しやすいようである。読みやすくするために、次に簡単に解説を書くが、ややネタバレもあるので、白文字で書いた。読みたい方は、カーソルでエリアを選択して読んでいただきたい。

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ハチャメチャな展開が子供にウケそうなニール・ゲイマンのミニSF 『Fortunately, the Milk』

著者:Neil Gaiman(文)、Skottie Young(イラスト)

ハードカバー: 128ページ

出版社: HarperCollins

ISBN-10: 0062224077

発売日: 2013/9/17

適正年齢:G(3歳から小学生まで)

難易度:中級レベルと初級レベルの中間(難しい言い回しがあるが、基本的には平易な英語)

ジャンル:児童書、SF、ユーモア、冒険

キーワード:異星人、海賊、恐竜、ナンセンスユーモア

 

お母さんが出張に出かけた留守の間、お父さんは子供たち二人の面倒をみることになる。新聞を読んでいるとすぐに上の空になるお父さんは、最初の朝からミルクを切らしてしまう。

かけるミルクがないと朝食のシリアル(日本でいうコーンフレークはその一種)が食べられないと言う子供たちのために、お父さんはミルクを買いに出かけることにする。お父さん(著者ゲイマンのようにイギリス人らしい)も、紅茶に入れるミルクがないと困っちゃうからでもある。

でも、家の近所にあるお店に行ったお父さんはなかなか戻ってこない。

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1冊でホラー、殺人ミステリ、心理スリラー、家族ドラマが全部楽しめる『Help For The Haunted』

ハードカバー: 368ページ

出版社: William Morrow

ISBN-10: 0060779632

発売日: 2013/9/17

適正年齢:PG13(中学校上級生から)

難易度:上級と中級の中間。入り込みやすいストーリーなので、知らない表現が出てきても、読みやすく感じるだろう。

ジャンル:心理スリラー/ミステリ/ホラー/家族ドラマ

キーワード:霊能力者/ゴーストハント/キリスト教/家族関係/秘密/愛憎

 

1980年代後半のアメリカ合衆国メリーランド州ボルチモアが舞台。

Sylvie Masonの両親SylvesterとRoseは、熱心なキリスト教徒でありながらも、ゴーストハントを生業としていた。敬虔なキリスト教徒が多いその地では霊能力者を悪魔崇拝者とみなす者も多く、テレビや本で有名になったMason夫妻は居心地の悪い存在だった。

Mason夫妻は仕事で旅をしなければならないときには、Sylvieと姉のRose(英語圏では子供に親と同じ名前をつけることがよくある)も一緒に連れて行った。Sylvieは親の期待に沿った良い子だったが、5つ年上のRoseがあまりにも反抗的で衝動的だったために、家に置き去りにできなかったのだ。厳格な父と長女のRoseは折り合いが悪く、争いが絶えなかった。

その日、真夜中にかかってきた電話もRoseからのものだった。

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同業作家たちが絶賛するほろ苦い青春小説『Eleanor & Park』

著者:Rainbow Rowell

ハードカバー: 328ページ

出版社: Griffin (2013/2/26)

ISBN-10: 1250012570

発売日: 2013/2/26

適正年齢:PG12(中学生以上)

難易度:中級レベル(シンプルな英語なのでストーリーは理解できるだろう。文章の巧みさを理解するためには上級以上の英語力が必要)

ジャンル:青春小説

キーワード:1980年代、初恋、コミック、ニューエイジ音楽、親子関係、心温まる、泣ける

2013年これを読まずして年は越せないで賞候補作(渡辺推薦)/『洋書ベスト500』掲載

 

1980年代のアメリカネブラスカ州オマハが舞台。

16歳の少年Parkは父が白人で母が韓国人のハーフだが、白人ばかりの地域に住んでいるために、高校では無知な同級生たちからアジア人代表のように扱われている。おまけに、スポーツが大好きな父や兄とは異なり、Parkはコミックやニューエイジ音楽が好きな非モテ系のナードである。

登校用のスクールバスは、高校のシビアな階級社会を反映している。そこで自分の横の平和な空席を確保していたParkは、ある日乗り込んできた転校生を見て唖然とする。

Eleanorは、まとまりがつかない赤毛やソバカスだらけの丸顔だけでも目立ちすぎなのに、体格がよくて、服装の趣味が悪く、徹底的に浮いているのである。むろん、誰も彼女に席を与えようとはしない。Parkも嫌だったが、仕方なく彼女に横の席を与えることになった。

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紙媒体の本ならではの体験を味わえる『S.』

著者:J.J. Abrams(企画・監督)&Doug Dorst

ハードカバー: 472ページ

出版社: Mulholland Books

ISBN-10: 0316201642

発売日: 2013/10/29

適正年齢:PG15(高校生以上)特に問題な部分はないが、中学生では状況がよくわからないだろう。

難易度:超上級(文章が難解というわけではなく、読みにくい構造だという意味)

ジャンル:実験的小説/ミステリ

キーワード:架空の小説・作家、J.J. Abrams、テセウスの船(Ship of Theseus)

S.というタイトルだけのシンプルな黒いブックケースは猿と船の絵がついたシールで封印されている。

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封印を切る前の期待に満ちた瞬間

そのブックケースの中から出てきたのは、『Ship of Theseus(テセウスの船)』というタイトルの布張りのハードカバーである。背表紙についたシールと表紙裏のスタンプからは図書館の本らしい。しかも1949年刊行の古い本らしく表紙はくたびれているし、中身のページは黄ばんでいる。

タイトルのページから余白をびっしりと埋めているのは、2人の異なる人物によるコメントである。どうやら、この二人は本を使ってコミュニケーションをとっていたようである。ひとりは、この本を高校の図書館から失敬した(という設定の)Ericである。

Ship of Theseus(登場人物の二人に倣って今後はSOTと呼ぶ)の著者とみなされているV.M.Straka(本も著者も、もちろんフィクション)は、その時代を代表する作家だったが、そのアイデンティティは現在も不明である。SOTを翻訳したCaldeiraとStrakaの関係も謎に包まれている。16歳のときにStrakaの作品の虜になったEricは、高校の図書館からこの本を拝借したたま返却せず、大学院でもStraka研究を続けていた。大学の図書館で置き忘れられていたSOTを見つけた大学生Jenは、「見つけた人はワークルームB19に戻しておいてくれ」という注意書きを読み、メッセージつきで本をワークルームに戻す。

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私の子供時代を思い出させてくれた絵本『Journey』

著者:Aaron Becker

ハードカバー: 40ページ

出版社: Candlewick

ISBN-10: 0763660531

発売日: 2013/8/6

適正年齢:G(子供から大人まで制限なし)

難易度:文字がないので誰でもOK

ジャンル:絵本

キーワード:空想/想像での旅

 

この絵本を見たとたん、子供時代の思い出で胸がいっぱいになった。

山陰の田舎町で生まれ育った私の人生を変えたのは、私が幼稚園のときに母が購入を始めた『少年少女 世界の名作文学』だった。

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