作者:Taylor Jenkins Reid
ハードカバー: 368ページ
出版社: Ballantine Books
ISBN-10: 1524798622
ISBN-13: 978-1524798628
発売日: 2019/3/7
適正年齢:PG15+(セックス&ドラッグの話題あり)
難易度:中級(登場人物のインタビュー形式なので、すべて短い語り言葉)
ジャンル:文芸小説
キーワード/テーマ:70年代ロックバンド、アメリカのロックシーン、ドラッグ、シンガーソングライター、青春、愛、裏切り、後悔
読み終えたくなくてわざと間を置き、読み終えた後もずっと登場人物について考え続け、この本について語りたいから「この本を読むべき!」と周囲にすすめまくる本がある。私にとって、このDaisy Jones & The Sixはそんな本のひとつだ。
1970年代にアルバム『オーロラ』で頂点に達した人気ロックバンド「デイジー・ジョーンズ&ザ・シックス(Daisy Jones & The Six)」は、その全米ツアーの最中に突然解散した。「作者」はバンドのメンバーや家族を8年間にわたって取材してこの本を書いたというまえがきからこの小説は始まる。
放任主義の両親に育てられたデイジー・ジョーンズは中学生くらいから一人でクラブやロックシーンに出没し、そこで年上のロックミュージシャンとつきあったりするトップクラスのグルーピーだった。美しくて奔放なデイジーに恋する男は多かったが、彼女は誰の言いなりにもならない頑固さを持っていた。そして、いつしか自分で作詞作曲をするようになっていた。
父が家族を捨てたために幼いときから母子家庭で育ったビリー・ダンは父が残したギターをきっかけに音楽にのめりこむようになり、弟のグレアムと「ダン・ブラザーズ」というバンドを結成した。だが、メンバーが6人に増え、メンバーとの話し合いで「ザ・シックス」として活動するようになり、レコード・プロデューサーのテディ・プライスに見出されてデビューを果たした。
実力はあるがいまひとつ商業的なインパクトが少ない「ザ・シックス」は、ツアーの前座をしていたデイジーと試験的に一緒にアルバムを作ることになる。ゲスト的な存在としてレコード企画に招かれたディジーは、同等の立場を要求し、ビリーと衝突する。その結果、誰もがハッピーではないという点で平等な「デイジー・ジョーンズ&ザ・シックス」というバンド名でアルバムを作ることが決定した。
リーダーとして専制君主的にバンドを率いてきたビリーだが、デイジーの主張で誰もが意見や文句を言うようになり、バンド内の緊張が高まっていった。自分の音楽に過剰とも言える情熱と自信を持つカリスマであるビリーとデイジーは、愛と憎しみに近い強い情熱でアルバムを作っていく……。
70年代にティーンだった私にとって、70年代のロックには特別な思いがある。この本を読みはじめてすぐに、ノスタルジックさで胸がつまった。ビリーとデイジーは、当時の「セックス、ドラッグ、ロックンロール」の申し子のような存在だが、特に連想したのがフリートウッド・マックだった。デイジーはスティービー・ニックス、ビルはリンジー・バッキンガムだ。
フリートウッド・マックのアルバム「噂 (Rumours)」が出たとき、高校生だった私はレコード店でそのアルバムカバーをじっと眺めていたことを覚えている。スティービー・ニックスがまるで妖精のようで、彼女に憧れたものだ。でも、あの頃にはインターネットなどなかったから、このアルバムの作成の途中で高校生の頃からずっと一緒だったスティービーとリンジーが別れたことや、クリスティン・マクヴィーと夫のジョンがもめていることや、それらをきっかけにフリートウッド・マックが崩壊しそうになったことなど知らなかった。
むろんDaisy Jones & The Sixはフリートウッド・マックではないし、作者もその再現だとは思われなくないだろう。それよりも、70年代のロックシーンを通じて、私たち誰もが通り抜けた青春の苦悩や甘酸っぱさをノスタルジックに再現してくれる小説なのだと思う。
手を出さないほうがいいと思うモノや人に惹かれる気持ち、それを手に入れられそうな瞬間、手に入れらようと思えば手に入れられたものを故意に失う瞬間……。手に入れなかったからこそ得られた幸せの安堵と、失ったことへの後悔……。誰でも、そんな思い出を身近な人にさえ伝えずに心の奥底に保存しているものではないだろうか。
そんな記憶を持つ読者にとって、ビリーとデイジーの選択はずっと心に残ることだろう。
Maybe In Another LifeやAfter I DoなどのTaylor Jenkins Reidの初期の作品は、登場人物たちの言動が理解不能で好きではなかったのだが、才能があることは明らかだったのでずっと読み続けていた。前回のSeven Husbands of Evelyn Hugoも良かったが、この作品はそれを超えた完成度だ。書くたびに異なるテーマに挑戦するTJRの次の作品が楽しみだ。
オーディブルで聴きました。ナレーションもとても良かったです。
オーディオは映画のようで良かったですよね。
私は両方買ったのですが、両方とも楽しみました。
先日、○mazon Musicを聴いていた際、
Look At Us Now(Honeycomb) by Daisy Jones & The Six (from Album AURORA)と云う曲が流れていました。あれ、これって小説の中にしかない仮想バンドでなかったっけ?
念の為”Daisy Jones & The Six”でPrime Videoを検索すると、「デイジー・ジョーンズ・アンド・ザ・シックスがマジで最高だった頃」と云うドラマがヒット。’23.3.3より公開されていた模様です。現在#3エピソードまで公開されているのが判りました。
Taylor Jenkins Reidの作品は、先にSeven Husbands of Evelyn Hugoを読み始めたところで(謎解きの様な捻りがあって面白い)、Daisy Jones & The Sixは次の候補として予定していたのですが、ドラマが公開されてしまうと(原作との距離感はあれど)イメージが固着してしまうので、じっと我慢です。
70年代ロックシーンの楽屋裏にタイムスリップした気分です。「Linda Ronstadtを呼べないの?」のフレーズに、当時熱中した歌手の”Me and Bobby McGee”が頭の中でグルグルと響き、友人とレコードジャケットを眺める情景が一瞬蘇りました。
(後日談にDaisyが27歳クラブに入らなかったことが判り、胸を撫で下ろしました。)