Month: December 2009
あけましておめでとうございます
2008年の年末に始めた洋書に関するブログ「洋書ファンクラグ」と「洋書ニュース」は、洋書というニッチな分野ながらも、おかげさまでこの1年の間に1月のアクセス数が2万5千を超えるようになりました。出版社や著者から献本をいただきレビューや感想を求められることも増え、翻訳者や出版関係者との出会いもありました。何よりも嬉しかったのはブログ読者の皆さまとの出会いです。皆さまのおかげで、年末には洋書ファンクラブ「これを読まずに年は越せないで賞」といった読者参加型の企画も行うことができ、実り多き1年でした。 **************************************************************************************** もうひとつのブログ「ひとり井戸端会議」や「才能を殺さない教育」「子供の才能を殺さないために親が読む本」などで私は以前から教育の問題点について何度か語ってきましたが、この1年は、ソーシャルネットワークを通じて交流した方々や得た情報の刺激で「私自身ができること」について考えるようになりました。 そうしてたどり着いた2010年の新企画が「洋書ファンクラブ ジュニア」です。 この企画についてご説明する前に、私に強い印象を与えた2つの視点についてお話しさせてください。 まずは、ミューズ・アソシエイツ社長 梅田望夫氏の「知の英語圏日本語圏問題」です。 日本人の前にそびえたつ「言語の壁」で梅田氏はこう語っています。 「英語圏に生まれ育った若者たち」は、それが世界のどこであろうと、別の意味でリアル世界の物理的制約を軽々と超えていく。 日本語圏で生まれ育った若者たちについてはどうでしょう? 学ぶことから働くことまで、ネットがさまざまな意味で「人生のインフラ」そのものへと進化する今、「言語の壁」と言語空間特有の文化に封じ込められるゆえの「文化の壁」がそびえたってくるのを、改めて感ずるのである。 もうひとつの視点は、Googleがいかにして生まれ現在に至ったかを描いた「Googled」というノンフィクションから得たものです。 著者のKen Aulettaは、Googleの成功に不可欠なものとして情熱とビジョンを挙げ、「ビジョンなしの情熱は焦点が絞れていても電池が入っていない機械のようなものである」と説明しています。テストの点が過剰に尊重されている日本の教育では、1つの問いに対して1つの”正しい”答えを高速ではじき出すことがあたかも知性や能力と勘違いされています。「情熱とビジョン」はそういった教育からは生まれません。かえってその可能性を殺してしまうことでしょう。 私が「洋書ファンクラブ ジュニア」の企画を具体的に考え始めたのは、オンライン産経ニュースでの梅田氏の「進化を遂げる英語圏」を読んだときです。特に次の部分が印象的でした。 インターネットは既存産業に破壊的なインパクトを及ぼすと同時に、利用者には圧倒的な利便性や生産性向上をもたらすものだ。私は勝手に「知の英語圏日本語圏問題」と呼んでいるのだが、世界語と化した英語の非対称性ゆえの構造問題と理解しつつも「これだけの知的興奮の可能性が英語の世界にしかもたらされないのか」と個人的には残念な気持ちが勝る。「日本語で学べる環境」や「日本語による知の創造の基盤」の競争力をいかに維持するのか。ウェブ進化の恩恵を受けて新しい地平が拓(ひら)かれる英語圏を見つめながら、日本人として考えるべき課題は山積だなあと悩む昨今である。…
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ボストンのガードナー美術館の盗難事件を扱ったミステリー Among Thieves
David Hosp384ページ(ハードカバー)Grand Central Publishing 2010/1/11発売ミステリー/アート盗難 http://rcm.amazon.com/e/cm?lt1=_blank&bc1=FFFFFF&IS2=1&npa=1&bg1=FFFFFF&fc1=000000&lc1=0000FF&t=yofaclja-20&o=1&p=8&l=as1&m=amazon&f=ifr&md=10FE9736YVPPT7A0FBG2&asins=0446580155 http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?lt1=_blank&bc1=FFFFFF&IS2=1&npa=1&bg1=FFFFFF&fc1=000000&lc1=0000FF&t=yukariscott-22&o=9&p=8&l=as1&m=amazon&f=ifr&md=1X69VDGQCMF7Z30FM082&asins=0446580155
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骨董の短刀が伝えようとしているものは何か?愛と贖罪のストーリィ — The Last Will of Moira Leahy
Therese Walsh304ページ(ハードカバー)Shaye Areheart Books2009/10/13文芸小説 http://rcm.amazon.com/e/cm?lt1=_blank&bc1=FFFFFF&IS2=1&npa=1&bg1=FFFFFF&fc1=000000&lc1=0000FF&t=yofaclja-20&o=1&p=8&l=as1&m=amazon&f=ifr&md=10FE9736YVPPT7A0FBG2&asins=0307461572 http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?lt1=_blank&bc1=FFFFFF&IS2=1&npa=1&bg1=FFFFFF&fc1=000000&lc1=0000FF&t=yukariscott-22&o=9&p=8&l=as1&m=amazon&f=ifr&md=1X69VDGQCMF7Z30FM082&asins=0307461572 25歳のMaeve(メイヴ)は、大学で外国語を教える以外にはほとんど外の世界との交流がない孤独な生活を送っている。幼なじみでルームメイトのKit(キット)以外の友人は大学で知りあったNoel(ノエル)だけだが、そのノエルもヨーロッパに行ったきり連絡を絶っている。 9年前までメイヴは怖いもの知らずの活発な少女だった。幼い頃からサキソフォンの才能を発揮し、誰からもプロの演奏家になることを期待されていた。けれども人類学者の祖父の影響を受けたMaeveの最大の夢は、一卵性双生児の妹Moira(モイラ)と冒険に乗り出すことだった。メイヴとモイラは二人の間だけしか通じない言語を話し、言葉を交わさなくても互いの考えていることが分かるほど親密だったが、思春期を迎えてモイラは次第に華やかな姉に嫉妬心を抱き、メイヴを拒絶するようになる。そして、ある日のできごとを境にメイヴはひとり取り残され、音楽を捨て、故郷のメインを去る。母親はメイヴの住む場所を訪問することを拒否し、メイヴは頑に故郷を避けている。故郷と母親だけでなく、親友キットの兄イアンを避け続けているのにも誰にも明かしていない深い理由がある。 ある日、メイヴは骨董のオークションでインドネシアのKerisという短刀をみかける。幼いときに失った祖父からの贈り物にそっくりのそのKerisをどうしても欲しくなったメイヴは金額が予想以上に競り上がったにもかかわらず、競り落とす。そのKerisを入手する前後から、彼女に不思議なことが起こりはじめる。頭の中で音楽や音が鳴り、Kerisが勝手に移動するのだ。そして、オークションでメイヴと競り合いをしたインドネシア人は彼女のドアに謎めいたKerisの本やメッセージを残す。kerisは人の運命を伝える神秘な剣で、彼は実はこのKerisを持ち込んだKeris作りの名人empuだったのだ。彼女はローマへ招待する彼のメッセージを無視するつもりだったが、突然訪ねて来た父親に強くすすめられてローマに出かける。ローマに到着すると、音信不通になっていたノエルが待っていた。 ●ここが魅力! 神秘的な力を持つ短刀Keris(左の写真)と双子の妹モイラに関する謎がこの物語の焦点です。快活だったモイラがどうして何事にも臆病な引っ込み思案の女性になってしまったのか、その心理にも引き込まれます。 また、私は骨董が好きで、買いはしないのですがオークションにも出かけることがあります。ですからKerisというインドネシアの短刀にまつわる神秘的な逸話や骨董好きのノエルという青年(日本で言えば草食系の男性)など、私の好みです。 超常現象が混じったこの物語の雰囲気は、私が以前ご紹介したIn the Country…
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Seth Godin,電子書籍で後ろ向きな大手出版社を叱る
先日ご紹介した無料ebook「What Matters Now」の発案者Seth Godinがまたまた出版界に波紋を投げかけてくれました。今回はgallycat.comの「Seth Godin Criticizes Simon & Schuster CEO’s Year-End Letter」というセンセーショナルなタイトルつき。 話題の元になったのは、Godinの「You don’t have…
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humanityの敵は誰なのか?娯楽作品でありながら哲学的なテクノスリラーーFreedom
Daniel Suarez416ページ(ハードカバー)Dutton Adult 2010/1/7テクノスリラー/SF(とも言えないことはない)/コンピューターゲーム http://rcm.amazon.com/e/cm?lt1=_blank&bc1=FFFFFF&IS2=1&npa=1&bg1=FFFFFF&fc1=000000&lc1=0000FF&t=yofaclja-20&o=1&p=8&l=as1&m=amazon&f=ifr&md=10FE9736YVPPT7A0FBG2&asins=0525951571 http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?lt1=_blank&bc1=FFFFFF&IS2=1&npa=1&bg1=FFFFFF&fc1=000000&lc1=0000FF&t=yukariscott-22&o=9&p=8&l=as1&m=amazon&f=ifr&md=1X69VDGQCMF7Z30FM082&asins=0525951571 2009年テクのスリラー最大のデビュー作Daemonの続編。 前作を読んでいない方はネタバレがあるので下記を飛ばしてください 国家の機密を隠すためにDaemonによる大量殺人の罪を着せられて処刑された刑事のSebeckは、DaemonのクリエーターSobolのプログラムにより命を救われ、あるクエストを命じられる。だがそのクエストが何であるのかは誰にも明らかにされていない。 一方、Daemonによる大量殺人の捜査で初期にSebeckを援助し、次いでFBI特別捜査官Roy MerrittとNSA( National Security Agency)の特別チームリーダーNatalie Philipsを援助したJon…
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スティーブ・ジョブズからプレゼンの秘訣を学ぼう ーThe Presentation Secrets of Steve Jobs
Carmine Gallo256ページ(ハードカバー)McGraw-Hill2009/9/11 http://rcm.amazon.com/e/cm?lt1=_blank&bc1=FFFFFF&IS2=1&npa=1&bg1=FFFFFF&fc1=000000&lc1=0000FF&t=yofaclja-20&o=1&p=8&l=as1&m=amazon&f=ifr&md=10FE9736YVPPT7A0FBG2&asins=0071636080 http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?lt1=_blank&bc1=FFFFFF&IS2=1&npa=1&bg1=FFFFFF&fc1=000000&lc1=0000FF&t=yukariscott-22&o=9&p=8&l=as1&m=amazon&f=ifr&md=1X69VDGQCMF7Z30FM082&asins=0071636080 世界中の若い世代のビジネスマンに「プレゼンテーションが上手な人物は?」と尋ねたら、たぶんスティーブ・ジョブズがダントツ1番でしょう。多くの大企業のCEOが聴衆を居眠りさせてしまうなかで、ジョブズは「聴衆」を「観客」なみに熱狂させてしまうのですから。そして、それらの聴衆たちは雇われてもいない伝道師としてアップル製品を熱に浮かれたようにあちこちに伝えてゆきます。ジョブズはまさにアップル教の教祖です。でも、ジョブズの偉大なプレゼンテーションが生まれつきのものであると思ったら大まちがい。魔術のようなプレゼンテーションは、ジョブズの努力の結果なのです。 自らもプレゼンテーションが巧みなことで知られるコミュニケーション専門家のCarmine Galloは、本書でジョブズのプレゼンテーションの秘密を綿密に分析し、どのレベルのコミュニケーターでも活かせるようにわかりやすく解説しています。読みながらメモを取ったのですが、結局ここで使えないほど溜まってしまったくらい同感した箇所が多い本でした。 昔は私もよくプレゼンをしましたし、外資系の会社に勤務しているころは英語のプレゼンや講演の通訳もやりました。だからダメなプレゼンがどんなものかは熟知していると言っても過言ではありません。最悪なプレゼンは聴衆を無視した自己満足なものです。ジョブズは、プレゼンテーションとはロックコンサートや演劇のパフォーマンスのようなものであり、「お客様」に「素晴らしい体験」をしていただくことが大切なのだと自覚しています。「Your Audience wants to be informed, educated, and…
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スティーブ・ジョブズからプレゼンの秘訣を学ぼう ーThe Presentation Secrets of Steve Jobs
Carmine Gallo256ページ(ハードカバー)McGraw-Hill2009/9/11 http://rcm.amazon.com/e/cm?lt1=_blank&bc1=FFFFFF&IS2=1&npa=1&bg1=FFFFFF&fc1=000000&lc1=0000FF&t=yofaclja-20&o=1&p=8&l=as1&m=amazon&f=ifr&md=10FE9736YVPPT7A0FBG2&asins=0071636080 http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?lt1=_blank&bc1=FFFFFF&IS2=1&npa=1&bg1=FFFFFF&fc1=000000&lc1=0000FF&t=yukariscott-22&o=9&p=8&l=as1&m=amazon&f=ifr&md=1X69VDGQCMF7Z30FM082&asins=0071636080 世界中の若い世代のビジネスマンに「プレゼンテーションが上手な人物は?」と尋ねたら、たぶんスティーブ・ジョブズがダントツ1番でしょう。多くの大企業のCEOが聴衆を居眠りさせてしまうなかで、ジョブズは「聴衆」を「観客」なみに熱狂させてしまうのですから。そして、それらの聴衆たちは雇われてもいない伝道師としてアップル製品を熱に浮かれたようにあちこちに伝えてゆきます。ジョブズはまさにアップル教の教祖です。でも、ジョブズの偉大なプレゼンテーションが生まれつきのものであると思ったら大まちがいです。これはジョブズの努力の結果なのです。 自らもプレゼンテーションが巧みなことで知られるコミュニケーション専門家のCarmine Galloは、本書でジョブズのプレゼンテーションの秘密を綿密に分析し、どのレベルのコミュニケーターでも活かせるようにわかりやすく解説しています。読みながらメモを取ったのですが、結局ここで使えないほど溜まってしまったくらい同感した箇所が多い本でした。 昔は私もよくプレゼンをしましたし、外資系の会社に勤務しているころは英語のプレゼンや講演の通訳もやりました。だからダメなプレゼンがどんなものかは熟知していると言ってよいでしょう。最悪なプレゼンは聴衆を無視した自己満足なものです。ジョブズは、プレゼンテーションとはロックコンサートや演劇のパフォーマンスのようなものであり、「お客様」に「素晴らしい体験」をしていただくことが大切なのだと自覚しています。「Your Audience wants to be informed, educated, and…
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電子書籍を拒絶する後ろ向きな出版社は生き残れない
先週大手出版社のSimon & Schuster, Hatchette, HarperCollinsが新刊の電子書籍の発売をハードカバーより遅らせることを発表しました。価格が低くて取り分の少ない電子書籍の売り上げを押さえて、ハードカバーを売ろうとする戦略ですが、私は「読者を無視した後ろ向きの対応しかしない出版社は生き残れない」と感じていました。なぜなら、出版社がなくても大物作家が直接電子書籍を売ることができる時代になってきたからです。 スティーブン・キングあたりが出版社抜きで直接電子書籍を売る最初の大物作家ではないかと2年くらい前から予想していた方もいましたが、なんと第一号はこの方、ビジネス書作家のStephen R. Coveyです。The New York Timesの記事によると、Coveyは電子書籍の出版権をSimon & SchusterからAmazon.comに1年契約で移行したとのことです。今後こういう作家が続く可能性がありますから後ろ向きな出版社は要注意ですね。 それから電子書籍でAmazon.comは売るたびに赤字、という記事をどこかで読みましたが、それは間違った情報だと思います。今ちょっと手元に資料がないので控えますが、近いうちにそれについても語りたいと思います。